「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。噂によると、地下にはヴォルダン時代の武器庫があるらしい」
ラーンが目を輝かせながら地図を広げた。イシェは眉間にしわを寄せた。「また噂話か？ そんな場所で財宝が見つかるわけないだろう」
「いやいや、今回は違う！ この地図、テルヘルが手に入れたんだぞ？ 彼女の言うには、ヴォルダンが隠した武器庫の情報らしい。もし本当なら…」
ラーンの言葉に興奮がこもり始める。イシェはため息をついた。「わかったわかった。でも、あの塔は危険だって聞いたことがある。崩落する可能性もあるし、罠も仕掛けられているかもしれない」
「大丈夫だ。俺がいるだろ？ それにテルヘルも一緒だ。彼女はヴォルダンについて詳しいから、何か対策を立ててくれるはずだ」
ラーンは自信たっぷりに言った。イシェは彼の熱意に押されてしまった。だが、心のどこかで不安がよぎっていた。
塔の入り口は崩れかけていて、石畳は雑草に覆われていた。テルヘルが先頭に立ち、慎重に歩を進めた。ラーンとイシェは後をついていく。
「ここはかつてヴォルダンの兵士たちが監禁されていた場所だ。苦役として働かされ、多くの命が失われた」
テルヘルが静かに言った。その言葉にラーンとイシェは言葉を失った。塔の暗い内部には、かつての悲劇の影が深く刻まれていた。
階段を降りると、広がる地下通路。壁にはひび割れが走っていて、ところどころから湿った風が吹き込んでいる。床には朽ちた武器や骨が散らばっていた。
「ここからは特に注意しろ」
テルヘルは鋭い目で周囲を警戒しながら歩を進めた。ラーンの軽快な足取りは、イシェの慎重な歩みに比べて明らかに不釣り合いだった。
通路の奥で、巨大な鉄扉が見えた。扉には複雑な模様が刻まれており、まるで警告のように見えた。テルヘルは扉に手を当てた。
「ここが武器庫だ…」
彼女は力強く扉を開けた。その瞬間、床が激しく揺れ始めた。石畳が崩れ落ち、ラーンはバランスを崩して転倒した。イシェはなんとか立ち止まったが、恐怖で体が震えていた。
「これは…！」
テルヘルは驚きの声を上げた。扉の開閉に連動して仕掛けられた罠だった。
崩落する塔の中で、三人は必死に生き残るための道を模索する。苦役と戦い抜いた人々の影が、彼らを静かに見守っているかのようだった。