「よし、行こう！」ラーンの声はいつものように明るい。だが、イシェにはいつもと何かが違うと感じられた。彼の瞳に、どこか影が差しているようだった。
「待てよ、ラーン。今回はちょっと様子見しようじゃないか。あの遺跡は危険だって聞いたことがあるんだ」イシェは慎重に言った。彼は最近、ラーンの行動に不安を感じることが増えているのだ。「大穴」を掘り当てるという夢を追いかける彼の熱意は、まるで苦い薬のようにイシェの心を蝕んでいた。
「大丈夫だ、イシェ。俺たちにはテルヘルがいてくれるじゃないか。」ラーンはそう言って、自信満々の笑みを浮かべた。
テルヘルは背中に重厚な剣を背負い、鋭い視線で遺跡を睨んでいた。彼女はヴォルダンへの復讐を果たすため、あらゆる手段を選ばない女だった。ラーンとイシェに高額の日当を提示したのも、単なる都合の良い駒としてではなく、彼らを利用する価値があると判断したからに過ぎなかった。
遺跡の入り口には、奇妙な文様が刻まれた石碑が立っていた。イシェは不安を覚えながら、石碑に触れた瞬間、激しい寒気に襲われた。まるで、何かに取り憑かれたかのように、彼の体から力だけが奪われていく気がした。
「イシェ、どうした？」ラーンの声が遠く聞こえた。イシェは必死に意識を持ち戻そうとしたが、頭の中は混沌としていた。
その時、石碑の奥底から、黒く濁った光が噴き出した。その光は彼らを包み込み、苦いような、金属的な臭いが辺りを支配した。
「逃げろ！」ラーンの叫び声が響いたが、イシェはもう動けなかった。彼の視界は徐々に暗くなり、意識の奥底で、かすかな絶望が渦巻いていた。