「おい、イシェ、待てよ！」
ラーンが息を切らしながら振り返ると、イシェは眉間に皺を寄せ、地図を広げていた。「またか、ラーン。あの急な坂道、何度登り降りしたかわからないだろうに。」
「だが、あの遺跡の入り口、あの崖の上じゃないのか？」
「そうだけど、あの急斜面を登るよりも、少し回り道して安全な道を通った方が良いでしょう。ましてや、今回はテルヘルさんの依頼で重要な遺物探しだ。」イシェは地図を片付けながら、冷静に言った。「安全第一が鉄則だ」
ラーンの顔色が曇る。彼は冒険心旺盛だが、イシェの慎重さを理解しているつもりだった。しかし、今回は少しばかり違っていた。テルヘルからの報酬は莫大で、その金額は彼らの人生を変えるものになるかもしれない。
「そうだな、イシェも言う通りだ」
ラーンの言葉にイシェは少し安心したような表情を見せた。「よし、では安全なルートで進もう。」
二人は歩き始めたが、ラーンは後ろ髪を引かれる思いだった。あの崖の上には、きっと何かがあるはずだと確信していた。彼はテルヘルに「大穴」を掘り当てたいという夢を打ち明けたことがあった。テルヘルは微笑んで、「若輩の夢を見るのは悪いことではない」と言ったが、その目は冷たかった。
イシェと別れて一人で崖へ向かうラーン。彼は危険を承知で、急斜面を登り始めた。彼の足取りは軽やかで、まるで崖に吸い寄せられるかのように進んでいく。頂上に着いた時、ラーンの瞳は輝いていた。そこは、まさに大穴だった。
しかし、その瞬間、背後から声が聞こえた。「待て！」