ビレーの朝はいつも早かった。まだ薄暗い空の下、ラーンとイシェはテルヘルから渡された地図を眺めながら、今日も遺跡へと向かう準備をしていた。近くの泉で顔を洗い、乾パンを頬張り、ラーンの粗雑な剣を磨くイシェの動作が、何よりも彼らをこの地に縛り付けているようだった。
「今日はあの洞窟だな」
テルヘルは地図を指さし、冷たく言った。洞窟の名前は聞いたこともない。ラーンはワクワクしながら頷き、イシェは眉間に皺を寄せた。地図には、その洞窟の奥深くに何かが眠っているらしいと記されていた。遺跡探索で得られる報酬はいつも僅かなものであり、テルヘルとの契約もあくまで短期的なものだった。だが、今回は少し違う気がした。
「何か感じる」
テルヘルはそう呟いた。彼女の鋭い瞳には、いつもの冷たさとは別に、何か燃えるようなものが宿っているように見えた。イシェは一瞬、彼女を警戒する気持ちと、同時に何かに導かれるかのような感覚に襲われた。
洞窟の入り口は狭く、湿った空気と土の臭いが漂っていた。ラーンが先頭を切って進んでいく。彼はいつも通り無邪気に笑っていたが、イシェは彼の背中に何か不吉な予感を感じた。地図を頼りに進み、やがて彼らは広大な地下空間に出た。そこには、巨大な石柱が立ち並び、天井からは光る苔が垂れ下がっていた。
「ここが…」
テルヘルは息を呑んだ。彼女は地図に記されていた場所よりも遥かに大きな遺跡を発見したのだ。そして、その中心には、芽吹くような緑色の光を放つ奇妙なオブジェクトがあった。それは、まるで生命の源のように pulsing し、周囲の空気を温め、照らしていた。
ラーンは目を丸くし、イシェは息をのんだ。テルヘルはゆっくりとオブジェクトに近づき、その表面に触れた。その瞬間、洞窟全体が光り輝き、激しい風が吹き荒れた。三人はバランスを崩し、床に倒れ込んだ。
立ち上がった時、彼らはすでに別の場所にいた。そこは、広大な平原で、青い空が広がっていた。遠くには、かつて見たこともないような巨大な都市が建ち並んでいた。
「ここは…」
ラーンの声が震えていた。イシェは言葉も出なかった。テルヘルは冷静に周囲を見回し、地図を取り出した。そこに記されていたのは、ヴォルダンではなく、別の国名だった。そして、その国の歴史には、この遺跡と深く関わっている様子が記されていた。
「これは… beginning だ」
テルヘルは静かに言った。彼女の瞳には、復讐心ではなく、何か新しい希望が宿っていた。それは、まるで芽吹きのようなものであり、彼女たちの運命を大きく変える予感を漂わせていた。