ビレーの薄暗い酒場の一角で、ラーンが豪快に笑い声を上げていた。「あの遺跡の壁画、お前ら見たか?あれはさ、明らかに古代人の戦闘シーンを描いてるんだ!俺には武器の持ち方まで分かるぞ!」
イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の言葉を遮った。「また大げさな話をしてるよ。壁画なんてただの抽象的な模様にすぎないでしょう。それに、あの遺跡は危険すぎるからもう行くべきじゃない」
ラーンの顔色が曇った。「何言ってんだ?俺たち冒険家だろ?危険と隣り合わせでこそ興奮するんだ!」
「興奮するどころか、命を落とすかもしれないんだよ!それに、あの遺跡には何もないって、テルヘルも言ってたでしょ?」
ラーンはテーブルに肘をつき、うつむいた。「そうだな…テルヘルはそう言ってたな…」
イシェの言葉がラーンの心に刺さった。テルヘルはいつも冷静沈着で、その鋭い洞察力は彼らを何度も危機から救ってきた。だが、今回は彼女の目は冷たかった。
「あの遺跡はヴォルダンと関係があるらしい」とテルヘルは言った。「何か隠されているものがあるのかもしれないけど、危険すぎる。近づかないほうがいい。」
ラーンの胸に、虚しさを感じた。彼はいつも夢見ていた冒険、大穴を見つけるという夢が、目の前で崩れ去っていくような気がした。
その時、イシェがラーンの手を握った。「でも…」と彼女は言った。「もし本当に何かが見つかったら、それはきっと素晴らしいものになるでしょう」
ラーンの目は輝きを取り戻した。「そうだな!いつか必ず大穴を見つけ出すんだ!」
イシェはラーンの顔を見つめ、静かに頷いた。
「そうね。いつか…」
二人は互いに力を込めて手を握りしめ、酒場から立ち去った。彼らの後ろを、テルヘルが鋭い目で追っていた。彼女の心には、ヴォルダンとの復讐よりも、より深い何かが渦巻いていた。それは、失われた芸術の輝きを取り戻すという願いだった。