「よし、今回はあの崩れた塔だ！」ラーンが拳を握りしめると、イシェは眉間にしわを寄せた。「またそんな危険な場所に？ 以前の件で懲りないのかい？」。ラーンの顔には油断のない笑みが浮かんでいた。「大丈夫だって！ 今回は必ず何か見つかるはずだ。ほら、テルヘルさんも期待してくれてるだろ？」。テルヘルは薄暗い酒場に腰掛け、静かに酒を傾けていた。彼女の目は鋭く、まるで獲物を見据える獣のようだった。「私は結果だけ見れば良い。成功すれば報酬も約束通りだ」と彼女は冷たく言った。イシェはため息をつきながら、準備を始めた。
ビレーの街を離れ、崩れた塔へと続く道を歩く3人。道中は一面に花が咲き乱れ、春の花吹雪のように色鮮やかな景色が広がっていた。しかし、イシェにはその美しさよりも不安が先に立ちはだかる。「あの塔は危険だと聞いたことがあるぞ…。噂では呪われていると言われているし…」
ラーンはそんな話を耳を貸すことなく、塔に向かって走り出した。「さあ、イシェも急げよ！ 宝物が見つかったら、みんなで花吹雪のように祝おうぜ！」。イシェはため息をつきながら、ラーンの後を追いかけた。テルヘルは静かに後をついてきたが、彼女の瞳には影が落とされていた。塔に近づくにつれ、冷たい風が吹き付け、花びらが舞い散り始めた。それはまるで、この場所の悲しさを告げているようだった。
崩れた塔の入り口に辿り着くと、ラーンは興奮気味に中へと飛び込んだ。「さあ、大穴だ！」。イシェは彼を止めようと手を伸ばしたが、もう遅かった。ラーンの姿は、暗闇の中に消えていった。イシェは不安な気持ちを抱えながら、テルヘルと共に塔の中へ足を踏み入れた。
塔の中は薄暗く、埃が舞っていた。崩れた石や朽ち果てた家具が散乱し、かつての栄華を偲ばせていた。イシェは静かに周囲を見回し、何か異変がないか警戒していた。テルヘルは鋭い目で壁を眺め、何かを探しているようだった。
すると、突然、ラーンの叫び声が聞こえた。「イシェ！ テルヘル！ 助けて！」。声のする方へと急いで駆けつけたが、そこは深い穴になっており、ラーンは転落しそうになっていた。イシェは慌てて彼の手を掴み、必死に引き上げた。しかし、その瞬間、床が崩れ始め、3人は大きな穴に飲み込まれるように落ちていった…。
目覚めた時、3人は暗い洞窟の中にいた。頭が痛く、意識が朦朧としていた。「ここは…？」イシェはぼんやりと周囲を見回した。ラーンは怪我をしていたが、なんとか立ち上がろうとしていた。「おい、イシェ！ ここは一体…」彼の言葉が途絶えた時、洞窟の奥から赤い光が差し込んだ。それはまるで、花吹雪のように舞い上がる赤い光だった。
「何かあるぞ…」テルヘルが低い声で呟き、3人はゆっくりと光の方へ近づいていった。洞窟の奥には、巨大な宝箱があった。その表面には複雑な模様が刻まれており、赤い光を放ちながら輝いていた。ラーンの目は金銭欲に満ちていたが、イシェはどこか不安を感じた。この宝箱は一体何なのか？ そして、なぜここに置かれているのか？
その時、テルヘルが宝箱に手を触れた瞬間、洞窟全体が激しく揺れ始めた。「気をつけろ！」イシェが叫んだが、遅かった。天井から岩が崩れ落ち、3人は再び暗闇の中に飲み込まれていった…。