ビレーの朝焼けは、いつも通りの薄汚れたピンク色だった。ラーンが目を覚ますと、イシェがいつものように近くの泉で顔を洗っていた。イシェの顔色は青白い薄墨色で、朝の光を反射してかすかに紫がかっているようだった。
「今日はいい日になりそうだな」
ラーンの声はいつもより少し低く、朝の空気を帯びていた。イシェは小さく頷き、視線をテルヘルに向けた。黒曜石のように深い色の瞳が、朝日に照らされて赤みを帯びていた。彼女は昨日手に入れた地図を手に取り、複雑な模様を指でなぞった。その線はまるで墨の跡のように濃く、地図全体に漆黒の影を落としていた。
「今日はあの遺跡に入るんだ」
テルヘルの声は冷たく、まるで冬の夜空のように澄んでいて、ラーンの耳元で小さな氷片が散らばるような感覚を与えた。イシェは静かに頷き、準備を整え始めた。彼女の動きは、いつもより少し鋭く、まるで影が彼女に張り付いていたように見えた。
遺跡への道は、赤土の埃を巻き上げる太陽の下で焼け焦げていた。ラーンの足取りは軽快だったが、イシェの足跡は小さく、地面に深く刻まれていた。テルヘルは先頭を歩き、彼女の後ろ姿は黒曜石のように硬く、不気味なほど静かだった。
遺跡の入り口は、まるで巨大な口を開けた獣のようだった。その内部は薄暗く、埃が舞っていた。ラーンの顔色は、薄汚れたピンク色から焦げ茶色へと変わっていった。イシェは小さなランプを点火し、その炎は青白い光を放ち、遺跡の壁に影を落とす。
「ここからは慎重に」
テルヘルの声は、まるで石がぶつかるような硬い音だった。ラーンの心は、燃えるような赤色に変わり始めていた。興奮と不安が入り混じり、彼の胸を締め付ける。イシェの目は、影の中に浮かび上がる青い炎のように輝いていた。