薄暮の空が茜色に染まり始める頃、ラーンは深い溜息をついた。「また空振りか。イシェ、お前どう思う？」
イシェは細長い指で遺跡の壁をなぞりながら、「地図と照らし合わせると、この奥に何かあるはずだけど…」と呟いた。彼女の瞳は、夕日に照らされて金色に輝いていた。
「この遺跡、何か変だな」ラーンが眉間に皺を寄せた。「いつもより空気が重いし、なんか臭う」
テルヘルは背中に重たい荷物を背負いながら、静かに周囲を見回していた。「警戒する必要はない。この遺跡はヴォルダンのものだ。我々が探しているものは、ここにはない」彼女の目は鋭く光り、深い藍色をしていた。
その時、壁に刻まれた紋章がかすかに赤く光り始めた。同時に、地下から湿った土の匂いと硫黄の臭いが立ち込めた。
「これは…！」イシェは声を張り上げた。「何かが起こるぞ！」
地面が激しく揺れ始め、天井から砂埃が降ってきた。ラーンは剣を抜いて、イシェを庇うように前に出た。テルヘルは冷静に周囲を見回し、何かを企んでいるかのように口角が上がった。
壁の紋章がさらに明るく赤く輝き、遺跡全体が不気味な赤い光に包まれた。その瞬間、深い闇の中に、巨大な影が浮かび上がってきた。
ラーンの心臓が激しく鼓動した。それは、今まで見たことのない恐ろしい生物だった。漆黒の鱗で覆われた巨体、燃えるような赤い目、そして、鋭い牙。その姿は、まるで煉獄から這い上がった悪魔のようだった。