日差しが容赦なく照りつけるビレーの広場には、埃が舞っていた。ラーンは、イシェの制止も振り切って酒場へと入ろうとした。
「またかよ、ラーン。遺跡から帰ってきたばかりじゃないのか？」イシェは眉をひそめた。「今日はちゃんと報告書を書いて、明日の準備をすべきだ。」
「ああ、面倒くさいな。そんなもん後で書けばいいだろ。今夜は一杯やりてえんだ！」ラーンは酒場の扉を開け放つと、豪快に笑い声をあげた。
イシェはため息をつきながら後を追った。「本当に困るわ…」
酒場の中では、活気に満ちた喧騒が渦巻いていた。ラーンの顔を見た常連客たちが声をかけ、酒を勧めてくる。ラーンは笑顔で応じ、すぐにテーブルに酒樽が並べられた。イシェは、ラーンのペースについていくのは疲れると思った。
「おい、イシェも一杯飲めよ！」
ラーンの言葉に、イシェは仕方なくグラスを受け取った。しかし、酒を口にした途端、彼女の視線はカウンター席に止まった。そこには、黒装束の女性が一人座っていた。その女性は、鋭い眼光で周囲を伺っているように見えた。
「あれは…」イシェは小声で呟いた。
ラーンが振り返ると、「あいつか？テルヘルだな。最近よくビレーに顔を出しているらしいぞ。」
「彼女の目的は何だろう？」イシェは不安げに言った。「ヴォルダンとの関係で何か企んでいるんじゃないかと心配だ。」
ラーンの表情も曇った。「確かにな。あの女の目は、いつも何かを伺っているようだ。」
二人は互いに言葉を交わさずに、テルヘルをじっと見つめた。彼女の唇からは、かすかに微笑みが浮かんでいた。その微笑みは、まるで獲物を狙う獣のようだった。
イシェは、背筋が寒くなった気がした。
「おい、イシェ！どうしたんだ？顔色が悪いぞ。」ラーンが声をかけた。
イシェは深呼吸をして、無理に笑顔を浮かべた。「大丈夫よ。少し疲れただけだわ。」
だが、彼女の心の中では、不吉な予感が渦巻いていた。