「よし、今日はあの崩れかけた塔だな。噂によると奥には未踏の部屋があるらしいぞ」ラーンの粗い声と、それに反してサラリと流れるイシェの「そうみたいですね」の声が重なり合った。ビレーの朝はいつもと変わらず薄暗い空の下で始まった。
二人は小さな食堂で朝食を済ませ、テルヘルに合流した。彼女はいつものように黒いフードをかぶり、鋭い眼光で二人を見下ろす。彼女の視線はまるで獲物を狙う鷹のようだった。
「準備はいいか？」テルヘルの声は冷たく、まるで石を擦り合わせるような音色だった。ラーンは不器用に頷き、イシェは小さく頷くだけだ。テルヘルは静かに口を開いた。「今日の目標は、塔の奥深くにあるとされる『星影の石』だ。ヴォルダンの魔術師たちがかつて研究していたという。」
「星影の石？ 何それ？」ラーンの興味を引いたようで、興奮気味に尋ねた。イシェが冷静に説明する。「古代の文献によると、それは強力な魔力を秘めた石らしい。ヴォルダンはそれを利用して世界を支配しようとしたと言われている」
「そんな石を手に入れれば、ビレーをもっと豊かにできるかもな！」ラーンの目は輝き始めた。イシェはため息をついた。「また夢物語を…」と呟くが、ラーンの熱意に少しだけ心を動かされるものがあった。
三人は塔へ向かう。崩れかけた階段をゆっくりと登り、朽ち果てた壁をよじ登る。石造りの床には苔が生い茂り、まるで舌のように部屋全体を覆っているようだった。
「ここは…」イシェが言葉を失った。広間の奥深くで、淡い光が揺らめいていた。それは星影の石だった。石の表面は滑らかで、まるで鏡のように光を反射している。触れたくなるような美しさだった。
「よし、取りに行こう！」ラーンが先陣を切り、イシェとテルヘルが続く。しかし、その瞬間、床から黒い影が立ち上り、三人を包み込んだ。冷たい風が吹き荒れ、石の表面がざらざらと音を立て始めた。
「これは…！」イシェの声が震える。ラーンは剣を抜き、テルヘルは呪文を唱え始める。しかし、影は容赦なく襲い掛かってくる。三人は互いに助け合いながら、必死に抵抗した。
「逃げるんだ！」テルヘルが叫んだ。三人は塔の入り口へと走り出した。影が足元を這うように追いかけてくる。イシェは振り返り、ラーンの顔を見た。彼の表情は決意に満ちていた。
「行くぞ、イシェ！」ラーンが叫び、二人は共に塔から飛び降りた。後ろから影の唸り声が響く中、三人はビレーへと続く道を駆け抜けていった。