ラーンの大声を遮るように、イシェが小さく唸った。「待て、ラーン。あの石畳、以前にも見たような…」。ラーンの足は既に崩れ落ちた階段を駆け上がっていた。
「何言ってんだ、イシェ!こんなチャンスはめったにないぞ!もしかしたら、今回は本当に大穴が見つかるかも!」
イシェが振り返ると、ラーンの背中に見覚えのある模様の布切れが風になびいていた。あの布は、数日前、ヴォルダンの兵士たちがビレー近くの遺跡から持ち出したものと同じだった。テルヘルに報告すべきか、一瞬迷ったが、ラーンを止めなければと思った。
「待て!ラーン!」
イシェの声は、崩れかけた壁の奥深くまで届かなかった。ラーンの足音だけが、石畳を激しく叩きつける音が響いていた。イシェは舌根に乾いた苦味が広がるのを自覚しながら、ゆっくりと階段を上り始めた。
「あの遺跡は危険だと言っただろう!ヴォルダンが何者かを探していた…」。
イシェの言葉は風に乗って消えていった。ラーンの背中は、もう見えなくなっていた。イシェは、石畳の上で小さくため息をついた。
「ああ、やっぱり…」