ビレーの夕暮れは、いつもより早く訪れた。ラーンの背中に沈む陽光は、燃えるような赤色に染まり、イシェが持つランプの光と混ざり合う。二人は疲れた様子で遺跡の出口付近に立っていた。
「今日は何も見つからなかったな」
ラーンがため息をつくと、イシェは小さく頷いた。
「そうだな。あの遺跡は期待したほどではなかったようだ」
彼らは最近、テルヘルからの依頼で、辺境の遺跡を調査していた。テルヘルはヴォルダンへの復讐のために、古代の遺物を探しているという。彼女は莫大な報酬を約束し、二人は危険を冒して遺跡に潜っていた。しかし、ここ数日は収穫がなく、イシェの不安は募るばかりだった。
「ラーン、あの話…本当に大丈夫なのか?」
イシェが呟くと、ラーンは少し不機嫌な顔をした。
「おいおい、またあれか?テルヘルが嘘をつくと思うなよ。あいつは本気でヴォルダンに復讐したいんだ」
しかし、イシェの不安は消えなかった。テルヘルの目的は、確かにヴォルダンへの復讐だと信じていた。だが、その手段が果たして正当なものなのか、イシェには判断できなかった。
「でも…」
イシェは言葉を詰まらせた。
「あの遺跡…あの遺物を見つけた時、テルヘルは何と言ったんだ?」
ラーンは一瞬目を閉じ、思い出したように言った。
「『これはヴォルダンに全てを奪い返せる力になる』ってな」
イシェの心はざわついた。テルヘルが探しているのは単なる遺物ではなく、何かもっと大きなものだったのかもしれない。そしてその力は、本当にヴォルダンを倒すことができるのか。それとも、世界をさらに混沌へ突き落とすものなのか。
「ラーン…」
イシェはためらいながら言った。
「もしかしたら、テルヘルの言う通りじゃなかったらどうするんだ?」
ラーンの表情が曇る。彼はイシェの真意を理解していた。自分たちは本当に、テルヘルと共に正しい道を行くことができるのか。
二人は沈黙の中、ビレーの街へと戻っていった。夕暮れの空は、まるで彼らの未来を暗示するかのように、深い闇に覆われていくように見えた。