ラーンが鼻をつまんだ。「またかよ、この腐った臭い」。ビレーの遺跡はいつもこうだった。地下深くから漂ってくる湿った土と金属の匂いは、冒険のロマンを少しだけ台無しにした。イシェは嫌がることなく、細身の体を器用に岩場の上で移動させている。
「もっと早く進むぞ、イシェ!」ラーンの声が響く。「テルヘルが待ってるんだろ?」
イシェは小さくため息をつきながら、「この遺跡は広すぎるわ。まだ入り口付近よ」と答えた。
テルヘルはいつも通り、遺跡の奥深くで何かを探している。彼女はヴォルダンからの復讐を果たすため、古代の遺物や文献を求めて各地を転々としている。その目的のためなら手段を選ばない冷酷な女性だが、ラーンとイシェにはある程度の信頼を寄せているようだ。
「見つけたぞ!」
ラーンの声が、湿った空気を切り裂くように響いた。石の扉に覆われた小さな部屋だ。扉には複雑な模様が刻まれており、まるで生きているかのように脈打っているように見えた。
「臭い…またあの臭いがする」イシェは眉をひそめた。
扉を開けると、そこには金と銀でできた宝の山が広がっていた。しかし、その輝きはすぐに薄れていく。部屋の奥からは、腐敗した肉の臭いが漂ってくる。床には、白骨化した何かの残骸が散らばっている。
「これは…何だ?」ラーンの顔色が変わる。
テルヘルは冷静に言った。「ヴォルダンが探し求めていたものの一つだろう」。彼女の目は、宝の山ではなく、部屋の奥にある何かを見つめていた。
「あの臭い…一体何なんだ…」イシェは震える手で口を覆った。
テルヘルはゆっくりと歩き出し、部屋の奥へ向かった。その足音は、不気味な沈黙の中で響き渡る。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らの表情には、冒険の興奮だけでなく、深い不安が宿っていた。