ビレーの薄暗い酒場には、いつもより活気がない。ラーンがイシェに絡むように話しかける声も、どこか小さく響く。イシェはいつものように眉間に皺を寄せ、ラーンの肩を軽く叩きながら「もういいだろう」と呟いた。「今日の稼ぎは少ないから、無駄遣いするなよ」。ラーンの顔は曇り、テーブルに置かれた酒をじっと見つめた。「ああ、そうだな。だが…」
その言葉が続く前に、扉が開いた。テルヘルが、その背中に夕焼けの光が差して影を長く伸ばしながら入ってきた。いつもより鋭い眼光で、2人を睨む。「準備はいいか?」と、低い声が響く。ラーンはすぐに立ち上がり、「もちろんだ!」と笑顔を見せた。イシェは少しだけ眉間を寄せたまま、テルヘルの言葉に耳を傾ける。「次の遺跡は、ヴォルダンとの国境近くにある。危険な場所だが、情報によると古代の武器が眠っているらしい」
ラーンの顔色が一変する。「古代の武器か!今度こそ大穴だ!」と興奮気味に声を上げた。イシェは冷静に「危険度が高い場所だと分かっているはずだ。なぜそこに?」と尋ねた。テルヘルは、少しだけ口角を上げる。「ヴォルダンとの国境に近いということは、ヴォルダンもその遺跡を狙っている可能性がある。我々は、彼らより先に手に入れなければならない」
ラーンの興奮が抑えきれないように見えたが、イシェは冷静さを保っていた。しかし、彼女の心の中にも、テルヘルの言葉に隠された何かを感じ取ることができた。そして、自分がそこにいる理由を改めて考え始めた。自己の未来を、この世界に投げ出す覚悟を決めた瞬間だった。