ビレーの酒場「荒くれ者」に、ラーンとイシェが疲れた様子で戻ってきた。いつもなら大口を開けて笑うラーンの顔も曇っている。
「今日はダメだったか?」イシェが静かに尋ねた。ラーンの肩を軽く叩くと、彼はため息をついた。
「ああ、また罠に引っかかったらしい。遺跡の奥深くで、床板が崩れて…」
イシェはラーンの言葉を遮った。「大丈夫?怪我はないのか?」
ラーンは苦笑した。「心配するな、俺はまだ死なない。ただ、今回は本当にひどい目に遭った。あの遺跡、何か悪臭がしてて…」
彼は言葉を濁すように酒を一口飲んだ。イシェはラーンの様子を見て、何か隠していると感じた。
「何かあったんだろう?」と問うと、ラーンは目を伏せた。
「実はな…あの遺跡で、何か奇妙なものを見つけたんだ。」
ラーンの言葉に、イシェは背筋がぞっとした。彼が持ち出したのは、小さな石の欠片だった。表面には複雑な模様が刻まれており、不気味な光を放っている。
「これは…」イシェは言葉を失った。
ラーンは苦い顔で言った。「あの遺跡は、俺たちが知っている遺跡とは違う。何か…邪悪なものを感じたんだ。」
イシェは石の欠片をじっと見つめた。その表面には、まるで生き物のようにも見える模様が刻まれていた。そして、その模様がゆっくりと、まるで脈打つように動いていることに気がついた。
「これは…何か臨界点に近づいているのかもしれない…」イシェは呟き、ラーンと目を合わせた。二人は、互いに深く息を呑んだ。この石の欠片が、彼らの運命を大きく変える予感がしたのだ。