ラーンの鼻息が荒くなるのが聞こえた。狭い遺跡の通路は湿気がこもり、不快な臭いが漂っていた。彼の背後からイシェが低い声で「待て」と言ったが、ラーンは既に石畳の上を駆け出していた。
「おい、待てって!」イシェは慌てて彼を追いかける。ラーンの視線は、通路の先に小さく光る何かを捉えていた。それは壁に埋め込まれた小さな石棺だった。興奮を抑えきれない様子で、ラーンは石棺に手を伸ばした。
その時、後ろからテルヘルが鋭い声を上げた。「止まれ!」
ラーンの手は石棺に触れる寸前で止まった。彼は振り返り、テルヘルの顔色を伺った。テルヘルは眉間に皺を寄せ、何かを察知したかのように周囲を見回していた。
「何かを感じた」とテルヘルは静かに言った。「この遺跡には罠がある。触るべきではない」
ラーンの目は石棺から離せなかった。「でも、あの光…」彼は呟いた。
イシェがラーンの肩に手を置いた。「落ち着け。テルヘルが言うように、危険かもしれない。ここは一歩引いた方が良い」
ラーンの胸は高鳴っていた。未知なるものへの好奇心と、その先に待つはずの莫大な財宝への期待が、彼を前に進めようとした。しかし、イシェの言葉とテルヘルの厳しい表情に押さえつけられた。彼は深呼吸をし、ゆっくりと石棺から手を引いた。
「わかった」とラーンは言った。「今回は諦める」
テルヘルは少しだけ安堵した様子を見せたが、その表情はすぐに険しく変わった。「しかし、この遺跡を諦めるわけにはいかない。何か別の方法を見つけなければ…」
三人は互いに言葉を交わしながら、石棺の光を背にゆっくりと後退していった。彼らの背中には、まだ見ぬ危険が忍び寄っていた。