ビレーの朝の喧騒は、ラーンの耳にはかすかな遠ざかりの声のようだった。イシェがいつものように彼を叱りつける声も、薄暗い tavern の奥から聞こえてくるかのようなぼんやりとした音に過ぎなかった。
「ラーン、もう起きてるんじゃないのか？今日はテルヘルが来る日だぞ！」
イシェの言葉に目を覚ましたラーンは、テーブルの上に置かれた粗末なパンとチーズを食い始めた。昨日飲んだ酒の残りがまだ頭の中で渦巻いているようだった。
「ああ、わかったわかった。今日は大穴が見つかる予感がするぜ」
ラーンの言葉を真顔で受け止めるイシェとは違い、テルヘルは眉間に皺を寄せながら彼らをじっと見ていた。
「大穴か…その言葉にはあまり意味はないでしょう。重要なのは、ヴォルダンに奪われたものを取り戻すことだ」
テルヘルはそう言うと、テーブルの上に広げた地図を指さした。そこには、ビレーから続く山脈の奥深く、ヴォルダンとの国境付近に位置する遺跡が記されていた。
「あの遺跡には、ヴォルダンが私から奪った大切なものがある。それを取り戻すために、あなたたちが必要だ」
ラーンの顔に一瞬迷いが浮かんだ。イシェもテルヘルの言葉に何かを感じ取った様子だった。
「大切なもの…何のことだ？」
イシェの問いに、テルヘルは少しだけ優しい表情を見せた。
「それは、私があなたたちに話せることではありません。ただ一つ言えることは、それが私の全てであり、ヴォルダンからの復讐を果たす鍵となるということです」
ラーンの心には、冒険と危険が入り混じった興奮が沸き上がっていた。イシェは少し不安げに見えたが、最終的にはラーンと同じように頷いた。
「わかった。我々は君の願いを叶えるために力を尽くす」
こうして、三人はビレーを出発し、ヴォルダンに迫る山脈へと足を踏み入れた。彼らの前に広がるのは、未知の危険と、そして、テルヘルの復讐を果たすための道だった。