ラーンの大斧が、埃と影にまみれた遺跡の壁を叩き割った。石塵が舞い上がり、イシェは咳き込んだ。
「おい、ちょっと慎重にしろよ!」
イシェの抗議もむなしく、ラーンは興奮気味に奥へと踏み入った。彼の顔には、いつも通りの無邪気な笑みが浮かんでいた。
「ほら、イシェ!大穴が見つかる予感がするぜ!」
イシェはため息をつきながら、ラーンの後を続けた。いつもと変わらない光景だった。ラーンが興奮して遺跡の中へ飛び込み、イシェが後を追いかける。そして、たいてい何も見つからず、空腹と疲労で終わる。それでも、イシェはラーンの笑顔を見て、どこか安心する自分がいた。
「この遺跡は古い文献にも記録がないぞ」
テルヘルがそう言うと、ラーンは顔をしかめた。彼女の鋭い視線は、いつも彼を冷静にさせるようだった。
「どうしたんだ、テルヘル?珍しい遺跡じゃないのか?」
「珍しいというより、危険な可能性もある。この遺跡の構造は、まるで…」
テルヘルは言葉を濁し、地図を広げた。イシェは彼女の指が示す場所を見て、背筋が寒くなった。それは、ヴォルダン帝国の国境に近い場所だった。
「ここは、かつてヴォルダンが侵略した地域だ。彼らは、この地に何かを隠していたと言われている」
ラーンの表情が曇った。彼はヴォルダン帝国の brutalities を肌で感じていた。イシェもまた、その残酷さを知っていた。
「でも、なぜヴォルダンはここに何かを隠す必要があるんだ?」
イシェの問いかけに、テルヘルは答えるように言った。
「ヴォルダンは、かつてこの地に存在した文明を滅ぼした。そして、彼らの技術を奪ったと言われている。その技術とは…」
テルヘルは言葉を濁し、地図をたたむと、ラーンとイシェを見据えた。彼女の目は、まるで燃えていた。
「それは、ある種の…力を秘めた遺物だ」
イシェの心はざわめき始めた。彼女は、自分の体の中で何かが動いているのを感じた。それは、まるで、何かに支配されているような感覚だった。
「その力は、ヴォルダンを滅ぼす力になるかもしれない…」
テルヘルの言葉は、まるで呪いのように響いた。イシェは、自分の膵臓が痛むのを感じた。それは、深い恐怖と同時に、不可解な興奮をもたらした。