ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑う音だけが響いていた。イシェは眉間にしわを寄せて、彼の背中に手を叩きつけた。「また大口叩いてるじゃないの。あの遺跡で財宝が見つかるわけないって!」
ラーンの笑顔は少し曇った。「いや、今回は違う気がするんだ!あの石碑の模様、見たことあるような…。」
「見たことあるなら記憶に留めておけばいいものを。いつもその調子で結局何も見つからないじゃないか!」イシェは吐き捨てるように言った。
その時、扉が開いてテルヘルが入ってきた。「二人は準備は整ったか?」彼女の鋭い視線が二人を刺すように感じた。
「ああ、準備は万端だ」ラーンは立ち上がり、剣を肩にかけた。「今日は必ず何か見つけるぞ!」
イシェはため息をつきながら、テルヘルの後について街を出た。遺跡へ向かう道は、かつての戦いで荒廃した様子で、崩れかけた石造りの壁が朽ち果て、雑草が生い茂っていた。
遺跡の入り口にたどり着くと、ラーンは興奮気味に石碑を指さした。「ほら!あの模様だ!」
イシェは近づいて石碑をよく見ると、確かに奇妙な模様が刻まれていた。しかし、その模様はまるで腐敗していくかのように、一部が欠けてぼんやりと見えた。
「何かあったんですか?」テルヘルが鋭く尋ねた。
「いや…特に…」イシェは言葉を濁した。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が重くのしかかっていた。ラーンは先頭を切って進んでいくが、イシェは彼の後ろを少し離れて慎重に足を運んだ。
「ここは以前にも来たことがあるはずだ…」イシェは呟いた。
「そうだな…でも、あの時は何もなかったはずだ」ラーンの声が遠く響いてきた。
その時、イシェは足元にある腐敗した木の根元に何か光るものを見つけた。近づいてよく見ると、それは古い金貨だった。
「ラーン!見て!」イシェが叫んだ。
ラーンも駆け寄ってきて、金貨を拾い上げた。「これは…!」
だが、その瞬間、地面が崩れ始め、ラーンはバランスを崩して深淵に落ちていった。
イシェは驚いて叫んだ。「ラーン!」
テルヘルは冷静に状況を判断し、ロープを取り出してイシェに渡した。「早く彼を助けろ!」
イシェはロープを握りしめ、深淵へ降りていく。しかし、下から漂ってくる腐った臭いと湿った空気は、イシェの心を不安で満たした。
「ラーン!大丈夫か?」イシェが叫んだ。
だが、返ってきたのはかすかなうめき声だけだった…。