ビレーの朝の光が、ラーンの寝顔に優しく届いた。彼はいつものようにイシェを起こす前に、こっそりベッドから抜け出した。今日は違う。いつもなら遺跡へ向かう前にイシェと軽食をとり、冗談を言い合いながら準備をするのだ。だが今日は違う。
ラーンの胸の奥深くで何かがうごめいていた。まるで小さな胎児が、温かい母体の中でゆっくりと大きくなっていくような感覚だった。それは、いつもの冒険とは違う、何か大きなものを感じさせる予感だった。
イシェを起こす時、彼の視線はいつも以上に鋭く、声も力強かった。「今日は必ず何かを見つけるぞ、イシェ。俺には感じるんだ」
イシェは少し戸惑ったが、ラーンの熱気に押されるように頷いた。テルヘルとの待ち合わせ場所へ向かう途中、ラーンの足取りは軽快で、いつものように危険を顧みない大胆な行動が目立った。まるで、何かを守りたいかのように。
遺跡の入り口に差し掛かった時、ラーンは突然立ち止まった。目の前で広がる光景は、いつもと変わらなかった。しかし、彼の心の中では、何かが大きく変化していた。それは、まだ言葉にできない、そして誰にも理解されない感情だった。まるで胎児が初めて自分の存在を認識するような、漠然とした感覚だった。
「よし、イシェ、テルヘル、準備はいいか?」
ラーンの声が響き渡り、遺跡へと続く長い階段に、三人の影が重なった。