「よし、今日はあの廃墟の奥へ行くぞ!」
ラーンが目を輝かせ、巨大な剣を肩に担いでビレーの外れにある遺跡へと向かう。イシェはため息をつきながら後を追う。
「またあの危険な場所か。本当に大穴があるなんて信じられないよ」
イシェの言葉にラーンは振り返り、豪快に笑った。
「お前にはわからない!いつか必ず大穴を見つけるんだって!」
ラーンの熱意に、イシェも少しだけワクワクする気持ちになった。
廃墟はかつて栄華を極めた都市だった名残が僅かに残り、崩れかけた石造りの建物が雑然と立ち並んでいた。埃っぽく、薄暗い内部には、何世紀も前の生活の痕跡が残されている。
「ここら辺は特に危険らしいぞ。気をつけろ」
テルヘルが鋭い眼差しで周囲を警戒しながら歩を進める。彼女は遺跡探索の経験豊富であり、ラーンとイシェよりもはるかに冷静沈着だ。
一行は崩れた通路を進み、奥へと進んでいく。すると、突然、床から異様な光が放たれ、その光が照らす壁には奇妙な模様が浮かび上がった。
「これは…」
テルヘルが眉をひそめる。模様は複雑に絡み合い、見る者の心をじわりと締め付けるような不気味さがあった。
「何か変だぞ…」
ラーンも不安そうに周囲を見渡す。イシェは震える手で懐から小さなランプを取り出し、その光を壁の模様に当てた。すると、模様がさらに鮮明になり、そこに描かれているものがはっきり見えた。
それは、人間の顔だった。
しかも、その顔は明らかに苦しんでいる様子で、目だけが大きく開いており、まるで叫び声をあげているようだった。
「何だこれは…」
イシェは言葉を失った。ラーンの表情も硬く、テルヘルは眉間に皺を寄せた。
その時、床から不気味な音が響き渡り、壁の模様が激しく光り始めた。
「逃げろ!」
テルヘルが叫んだ瞬間、床に開いた巨大な穴から、漆黒の影が這い出してくる。影はゆっくりと動きながら、ラーンたちに近づいてきた。
「やっ…」
ラーンの剣が光り、影に向かって斬りかかった。しかし、剣は影を貫通し、全く効果がない。
「これは…」
イシェは絶望的な顔で言った。
その時、テルヘルが叫んだ。
「胆嚢!あの模様の奥にある胆嚢を探せ!」
ラーンの目線は壁の模様へと移った。その中心には、小さくも不気味に光る宝石が埋め込まれていた。
「あの宝石…!」
ラーンは本能的に理解した。
それは、影を封じる鍵であることを。