「準備はいいか？」テルヘルが鋭い目で二人を見据えた。ラーンはいつものように無邪気に頷き、イシェは小さく息を吸った。ビレーの遺跡探索は今日も始まったばかりだ。
今回はテルヘルが目指すのは、町から南へ一日の馬車旅の場所にある、崩れかけた塔の内部だ。そこには、ヴォルダンに関する情報があると彼女は信じていた。ラーンの胃袋はすでに空腹を訴えていたが、そんなことはどうでもいい。テルヘルに雇われた以上、目的達成が最優先だ。
塔の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。石畳の上には崩れ落ちた瓦礫が散乱し、足元を見極めながら慎重に進む必要があった。ラーンは大きな剣を構え、イシェは細身の体で周囲を警戒しながら進んだ。テルヘルは二人の後ろを少し離れた場所で、常に周囲を警戒していた。
「ここだな」
テルヘルが立ち止まり、崩れかけた壁を指さした。そこに、かすかに光る金属の輝きが見えた。イシェが慎重に瓦礫をどけると、そこには小さな石棺が埋まっていた。
「開けろ」
テルヘルの指示でラーンは剣を抜いて石棺の蓋を開けた。中には、金貨や宝石ではなく、一枚の羊皮紙が入っていた。イシェが慎重に拾い上げると、そこにはヴォルダンに関する記述が記されていた。だが、その内容は謎めいたものであり、理解するにはさらに多くの情報が必要だった。
「これは…」イシェは眉をひそめた。「ヴォルダンの軍備について書かれているようだが、肝心の詳細は伏せられている」
「つまり、これがヴォルダンへの復讐の鍵となるのかもしれない」テルヘルは目を輝かせた。「この情報を使って、ヴォルダンに痛手を与える手段を探さなければいけない。そして、そのために必要なもの…」彼女は視線をラーンとイシェに向けた。「お前たちが必要だ」
ラーンの胃袋は空腹を訴え続けていたが、彼はテルヘルの言葉に力を覚えた。イシェもまた、この一件が彼らをどう変えていくのか、予感していた。