ラーンが遺跡の入り口に立っていた時、イシェが小さくため息をついた。「またここか…」と呟く彼女の視線は、ラーンの背後にある、崩れかけの石造りの門に向けられていた。
「おいおい、イシェ、今日は大穴が見つかる予感がするぜ!」ラーンはそう言って、太い腕を大きく振りながら、遺跡へと入っていった。彼の背中は、まるで興奮に満ちた子供のようだった。
イシェはため息をつきながら、ラーンの後を追った。彼女は彼を心配しているわけではない。むしろ、ラーンの無謀さに巻き込まれることで、自分がどこか安心しているようにさえ感じた。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気で満たされていた。石畳の上には苔が生えており、足元が滑りやすかった。イシェは慎重に足を踏み出しながら、周囲を警戒していた。
「おい、イシェ、こっち見てみろ!」ラーンの声が、奥の方から聞こえた。
彼女は急いでラーンの元へ駆け寄り、彼の指さす方向を見た。そこには、大きな石棺が置かれていた。
「わっ、これは…!」ラーンは目を輝かせながら、石棺に近づこうとした。しかし、イシェは彼を制止した。
「待ちなさい、ラーン!あの棺には何か仕掛けがあるかもしれない。」
「そんなこと気にすんな!」ラーンはイシェの言葉に耳を貸さず、石棺に手を伸ばそうとしたその時、石棺の上から大量の砂が崩れ落ち、ラーンの顔面を直撃した。
ラーンは悲鳴を上げながら後ずさりし、地面に倒れ込んだ。イシェは慌てて彼のもとへ駆け寄り、彼の顔を覗き込んだ。
「ラーン、大丈夫?」
ラーンの顔には、砂まみれの傷がいくつもついていた。しかし、彼は苦笑いしながら言った。「ああ、大丈夫だ。ただの砂だ…」
その時、イシェは石棺の近くで何か光るものを見つけた。それは、小さな金貨だった。イシェはそれを拾い上げると、ラーンに手渡した。
「よかったら、これを使えば少しは治療費になるんじゃない?」
ラーンの表情が一瞬だけ曇った。彼は金貨を握りしめ、小さく呟いた。「…ああ、ありがとう、イシェ…」
イシェは、ラーンの背中に何か影を感じた気がした。それは、彼の無謀さの裏に隠された、深い孤独なのかもしれない。彼女はため息をつきながら、彼と一緒に遺跡から出ていくことにした。
夕暮れの街を歩く二人の後ろ姿は、どこか寂しげに見えた。