ラーンの粗雑な斧が石を砕き、埃が舞い上がった。イシェは咳払いをして、「もっと丁寧に扱えばいいのに」と呟いた。ラーンは苦笑する。「そう言っても、宝探しの興奮を抑えられないんだよ。ほら、もしかしたら奥に何かあるかも!」
ビレーの遺跡はいつも期待はずれだった。錆びついた武器や欠けた陶器ばかりで、大穴と呼ばれる伝説の財宝にはたどり着けない。それでもラーンは希望を捨てなかった。イシェはそんな彼を「子供」と呼ぶこともあったが、彼の明るさに引っ張られるように、今日も遺跡に足を運んでいた。
今日の依頼人はテルヘルだった。彼女はいつも黒いフードをかぶり、顔全体を覆っているので、イシェには彼女の真の姿が想像できない。だが、鋭い眼光と冷徹な口調から、恐ろしい女性だと感じていた。
「ここだ」テルヘルが言った。奥の壁に奇妙な模様が刻まれていた。「これは古代ヴォルダンの文字だ。ここに何か隠されているはずだ」彼女はそう言うと、小刀を手に取り、慎重に壁を削り始めた。
イシェは緊張した。テルヘルの目的は遺跡の宝探しだけではないことを、彼女は知っていた。彼女の目は常にどこか遠くを見つめているようで、ヴォルダンへの復讐という暗い影が常に彼女を包んでいるようだった。
ラーンはそんなテルヘルに無邪気に「何か見つかったら、お前に半分あげるよ!」と笑った。
テルヘルは一瞬だけ顔を上げた。その瞬間、イシェは彼女の瞳の中に、深い悲しみと燃えるような憎しみが渦巻いているのを見た。そして、その瞳はすぐにまた影に隠れてしまった。
「いいえ」テルヘルは低い声で言った。「私は何も欲しくない。ただ、ヴォルダンを滅ぼすために必要なものだけが必要だ」
イシェはラーンの無邪気な笑顔と、テルヘルの冷たい瞳が重なり合う光景を、まるで肖像画のように脳裏に焼き付けた。この遺跡には、単なる宝が見つかる以上の何かがあると感じた。それは、それぞれの過去と未来、そして憎しみと復讐の物語だった。