「おいラーン、ちょっと待てよ。」イシェが荒れた石畳の上で足を止めた。ラーンの背中は、薄暗い遺跡の奥へと消えていく。「何だ、イシェ?また何か気に食わないのか?」ラーンは振り返りながら言った。イシェは眉間に皺を寄せた。「あの、あの扉の近く…なんか変だな。」彼女は指先で頬をこすった。いつもなら肌荒れが酷いこの場所で、なぜか落ち着かない感覚に襲われたのだ。
「変?どこが?」ラーンはイシェの言葉に耳を傾けながら、遺跡の奥へと進む。その扉は、まるで巨大な石版のように壁面にめり込んでいた。表面には複雑な模様が刻まれており、わずかに光を反射している。「ここか」テルヘルが合図を送った。彼女は三人の前に立ちはだかり、鋭い視線で扉を睨みつけた。「準備は良いか?」彼女は冷徹な声で言った。ラーンは剣を構え、イシェは小さな包丁を握りしめた。「よし、開けよう」テルヘルの言葉と共に、扉はゆっくりと開き始めた。
「うっ…」イシェが小さく声をあげた。扉の向こう側に広がる空間は、薄暗い光に満たされていた。そこには、巨大な石像が立ち並び、奇妙なシンボルが刻まれた柱が整然と並んでいる。そして、その中心には、輝く球体が浮かんでいた。
「あれは…!」ラーンの目は輝きを放った。「大穴だ!」彼は興奮を抑えきれず、球体に向かって駆け出した。だが、イシェは彼の腕を掴んだ。「待てラーン!何か変だ…」彼女は不安げに言った。しかし、ラーンの足はすでに止まることを知らなかった。
「イシェ、あの球体に触れたらどうなるか…想像できるのか?」テルヘルは冷静な声で言った。「この遺跡の謎を解き明かすために、我々はここに来たのだ。」彼女はラーンの後ろからゆっくりと近づき、彼の背中に手を置いた。その瞬間、イシェは肌荒れの痛みがひしと感じた。まるで、何かが彼女の体の中に忍び寄るように。
「ラーン!」イシェは叫んだが、彼の姿はもう見えなかった。球体に触れた瞬間、強烈な光が遺跡を包み込んだ。そして、静寂が訪れた。