「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。噂では地下に何かあるってな」
ラーンが地図を広げ、指で塔の位置を示した。イシェは眉間に皺を寄せた。
「また危険な場所を選んだじゃないか。あの塔は地元の人々ですら近づかないぞ。何か嫌な予感がする」
「大丈夫だ、イシェ。今回はテルヘルもいるんだから。それにほら、大穴が見つかったら、お前も夢の生活を送れるだろう?」
ラーンの言葉にイシェは小さくため息をついた。確かに、あの塔には古い書物の中に記されていたという、未開の地図が眠っているという噂もあった。もしそれが本当なら、彼らの運命を大きく変えるほどの発見になるかもしれない。だが、そのために命を懸ける必要があるのか?
テルヘルは鋭い目で二人を見据えていた。「準備はいいか。今日の収穫次第では、次の目的地が決まる」
彼女の言葉には冷酷な決意が込められていた。イシェは、テルヘルの目的を知るにつれ、彼女を信用するべきかどうか迷うようになった。彼女がヴォルダンに奪われたものとは一体何なのか?その憎悪の源は、単なる復讐心だけではないような気がした。
三人は塔に向かって歩き出した。崩れた石畳を踏みしめ、朽ち果てた門をくぐり抜けると、そこは薄暗い空間が広がっていた。埃っぽい空気を吸い込みながら、ラーンは剣を手にし、イシェは慎重に足取りを確かめて進んだ。テルヘルは先頭を歩き、鋭い視線で周囲を観察していた。
塔の中は、かつて誰かが住んでいた痕跡を残すだけで、今は静寂に包まれていた。壁には剥げ落ちた絵画が残り、床には埃をかぶった家具が倒れ伏している。まるで、時間の流れによって忘れ去られた場所のようだった。
すると、ラーンが不意に足を止め、顔色が変わった。
「おい、イシェ、何か感じるか?俺、なんか変な感じなんだ」
イシェはラーンの視線に従い、その場をじっと見つめた。そこには特に何もないようだったが、なぜか不気味な空気が漂っていた。まるで、この場所に何かが潜んでいるような気がした。
その時、遠くからかすかな音が聞こえてきた。それは誰かの足音のようだった。
「誰かいるぞ!」
ラーンは剣を構え、警戒態勢に入った。イシェも緊張し、テルヘルは静かに後ずさりしながら周囲を見回した。
影が壁に揺らめき、足音が近づいてくる。その時、彼らは気がついた。その音は、人間の足音ではない。
それは、何かの獣の足音だった。