ラーンが石を蹴り飛ばした。埃が舞い上がり、夕日に染まった空に一瞬溶けて消えた。「今日もダメか？」イシェの声は疲れていた。「そうだな。まあ、明日こそは！」ラーンのいつもの豪快な返事だったが、イシェには彼の声にも少し影が落ちているように聞こえた。
最近、遺跡探索で良い成果が出ない。日当を稼ぐためにテルヘルからの依頼を受け続けているが、見つかれば大金になるような遺物にはまだ出会っていない。「諦めろよ、ラーン。あのテルヘルは本当に俺たちを騙しているんじゃないか？」イシェは呟いた。
「そんなことないさ、イシェ。テルヘルは嘘つきじゃない。だって…」ラーンの言葉が途絶えた。テルヘルは確かに謎が多い。その鋭い眼光と冷酷な口調、そして何よりもヴォルダンへの復讐という執念深い目的。彼らを雇った理由は何か。
「どうしたんだ？」イシェの問いかけにラーンは目をそらした。「いや、なんでもない」彼は無理やり笑顔を作り、「明日こそは必ず大穴を見つけるぞ！」と叫んだ。
その時、ビレーの酒場から騒がしい声が聞こえた。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。酒場で事件が起こるのは珍しいことではないが、今日の騒ぎは様子が違うように感じた。二人は互いに言葉を交わすことなく、不吉な予感を抱きながら酒場へと向かった。
酒場の入り口には大勢の人々が集まっていた。中には、明らかにヴォルダンからの使者だとわかる男も混ざっている。「何があったんだ？」ラーンが声をかけた。すると、一人の男が震える声で言った。「テルヘルが…テルヘルが襲われたんです！」
イシェは心臓が skipped a beat した。ラーンはすぐにテルヘルの住む部屋へと駆け込んだ。イシェも後を追うようにして部屋に入った。部屋の中央には倒れたテルヘルがおり、血を流していた。彼女の横には、空になった酒瓶と散乱した宝石の破片があった。
「テルヘル！どうしたんだ？」ラーンは彼女に駆け寄った。「誰だ？誰がやったんだ？」イシェが尋ねた。テルヘルはかすれた声で言った。「ヴォルダン…ヴォルダンの…」そして息絶えた。
ラーンの顔面には怒りが渦巻いた。イシェは彼の背中に冷たい恐怖を感じた。 そして、テルヘルの死の理由を知ることで、自分たちの運命が大きく変わっていくことを悟った。