ビレーの朝の薄暗い路地裏。ラーンがイシェの肩を叩き、不機嫌な顔をした。
「おい、起きてろよ。テルヘルが待ってるって」
イシェは眠い目をこすった。「もう朝か…いつからこんなに早く起きなきゃいけないんだ…」と呟きながら立ち上がった。
昨日、テルヘルから依頼された遺跡探索は、ビレーから南へ数日の道のりだった。報酬も高く、危険な場所だと分かっているため、イシェは特に慎重になっていた。ラーンの無茶な行動にはいつもハラハラさせられるが、今回は彼女の冷静さも必要だと思っていた。
テルヘルの指示に従い、彼らは遺跡へと向かった。道中、ラーンはいつもと変わらず騒がしかったが、イシェは彼の背中に密かに視線を注いでいた。彼の肉体は逞しく、疲れ知らずのように歩き続ける。しかし、その強靭な肉体とは裏腹に、時に見せる子供のような無邪気さは、イシェを少しだけ不安にさせることもあった。
遺跡の入り口に差し掛かった時、テルヘルは振り返り、鋭い視線で二人を見据えた。「準備は良いか？」
ラーンの表情が引き締まった。「いつでも行くぞ！」と豪語する。イシェは小さく頷き、深呼吸をした。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気で満たされていた。足元には石畳が広がり、壁には奇妙な模様が刻まれていた。彼らの前に広がるのは、未知の世界だった。
「ここからは慎重に動こう」とテルヘルが呟くと、ラーンは先頭に立ち、剣を構えた。イシェは彼の背後から、弓矢を構えながら周囲を見回した。彼女の肉体は細身だが、緊張感と集中力は、ラーンの肉体とは違う強さを秘めていた。
遺跡の奥深くへと進むにつれて、不気味な音が聞こえてきた。それはまるで、何者かが彼らの動きに気づいて、静かに忍び寄ってくるような音だった。イシェは背筋がゾッとする感覚を覚えた。ラーンの肉体には、このような恐怖を感じさせるようなものはないだろう。しかし、イシェには、この遺跡の中に潜む危険を肌で感じるものがあった。
「何かいる…」イシェは小さく呟き、ラーンの肩を軽く叩いた。ラーンの肉体は反応し、すぐに周囲を見回ったが、何も見つからなかった。
だが、その時、壁の奥から黒い影が飛び出して来た！ ラーンは反射的に剣を振り下ろしたが、影は素早くかわし、イシェの方へと襲いかかってきた。