ビレーの市場の喧騒が遠くまで響いていた。石畳の上でラーンの重たい足音がこだました。イシェは後ろから小さくため息をついた。
「また遺跡探しの話？」
ラーンは振り返り、にこやかに笑った。「そうだな。今日はあの大穴の噂を聞いたんだ！テレポート装置とか、古代の呪文が書かれた巻物とか、なんでも出てくるらしいぜ！」
イシェは眉をひそめた。「そんな話、いつも聞いているわ。今回は本当なのかしら？」
「嘘かどうか確かめるには、実際に潜ってみないとわからないだろ？」
ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。「そうね。でも、あの遺跡は危険だって聞いたわよ。ヴォルダン軍の影がちらつくって噂も…」
ラーンの顔色が少し曇った。ヴォルダンの名前を口にすることさえ恐ろしい。
その時、背後から低い声が響いた。「準備はいいか？」
テルヘルが立っていた。彼女の鋭い視線に、ラーンとイシェは言葉を失った。
「噂の遺跡へ行くなら、私の指示に従いなさい」
テルヘルの言葉は冷たかった。だが、その声には確信に満ちていた。ラーンの耳には、遠くで馬の蹄音が聞こえた気がした。
「よし、行こう！」
ラーンが剣を抜くと、イシェも小さく頷いた。テルヘルは先導するように歩き出した。石畳の上を歩く足音だけが響いていた。彼らの背後では、市場の喧騒が徐々に遠ざかっていった。