ビレーの酒場で、ラーンが豪快に笑いを上げている。イシェは眉間に皺を寄せている。「また無駄な話ばかりだ」と心の中で呟きながら、ラーンの背後からテルヘルを見つめた。
彼女は静かに酒を傾け、時折周囲の様子を伺っている。ビレーの人々から耳にするヴォルダンの話、エンノル連合の政治情勢、そして遺跡探検の話。全てが彼女にとって貴重な情報源だ。特にラーンとイシェの関係性、彼らの強みと弱み、そして彼らが「大穴」を探す理由…。
「大穴か…」。テルヘルは苦い笑みを浮かべる。「あの二人には理解できない夢だ」。彼女はヴォルダンからの復讐を胸に秘めており、遺跡探索はあくまでもその手段の一つだった。ラーンとイシェを利用して、必要な情報や物資を集めるのだ。
しかし、彼らの純粋さにどこか心を痛めたこともある。特にイシェの鋭い洞察力と冷静な判断力は、テルヘル自身も一目置くほどだ。彼らにはまだ知らない世界がある。そして、その世界を知るためには、テルヘル自身の秘密を明かす必要があるかもしれない。
「だが、今はまだ時ではない」。彼女は静かに呟く。ラーンの背中に手を当て、そっと席を立った。「そろそろ準備だ」。
イシェはテルヘルの視線を感じ取ったのか、少しだけ顔を上げた。彼女の瞳には、何かを悟ったような光が宿っていた。
「準備?」とイシェが尋ねると、ラーンもようやく酒を飲み終えて立ち上がった。
「次の遺跡へ行くぞ!」とラーンは目を輝かせた。テルヘルは小さく頷き、三人はビレーの街を後にした。夕暮れの空に沈む太陽が、彼らの行く手を照らしているようだった。