ビレーの酒場「荒くれ者」の喧騒が、ラーンの耳をくすぐった。イシェがいつものように帳尻を合わせている。彼らはこの街で遺跡探索を生業にしていたが、大した収入には繋がらない。
「またあの遺跡か?」イシェが眉間にしわを寄せた。「あれは危険だと言ってるだろう」
ラーンは肩をすくめた。「大丈夫だろ。テルヘルが言うには、今回は特別な遺物があるらしいんだ」
イシェはため息をついた。「特別な遺物はいつも危険な罠とセットなんだよ。あの女に騙されてばかりいる」
テルヘルはヴォルダンから逃れてきた謎の女性だった。その過去は謎に包まれており、ラーンたちは彼女のことをよく知らなかった。だが、遺跡探索の依頼には高額の日当が約束されていたため、彼らは彼女の申し出を断れなかった。
「今回は違うんだ」ラーンは自信たっぷりに言った。「テルヘルが言うには、あの遺跡にはヴォルダンに奪われたものがあるらしい。それを取り戻すために、彼女は力を貸してくれると言ったんだ」
イシェの眉間にしわが増えた。「ヴォルダンと何の関係があるんだ?」
ラーンの耳には、酒場の喧騒の中に混じるかすかな話し声が聞こえてきた。「ヴォルダン…復讐…」
ラーンはイシェに目を向け、「きっとテルヘルが何か隠しているんだ。でも、今回は彼女の言う通りだ。あの遺跡には大きな秘密が眠っている」と告げた。イシェは深く考え込んだ後、小さく頷いた。
「わかった。行くよ、ラーン。でも、何かおかしいと思ったらすぐに引き返す」
翌朝、三人はビレーを後にした。街の耳目は、彼らの行方を注視していた。