ビレーの tavern の喧騒を背に、ラーンはイシェとテルヘルに向かって酒を傾けた。粗末な木製のテーブルの上には、まだ温かさが残るパンとチーズが並んでいた。
「おい、イシェ、今日の遺跡はどうだ?またあの奇妙な石板が出てきたって話だな」
ラーンの豪快な笑い声は、周囲の賑やかな話し声に埋没するどころか、かえって目立つほどだった。イシェは眉間に皺を寄せながら、小さく頷いた。
「ああ、あれだな。確かに奇妙だった。刻まれた記号が…耳ざわりな感じがした」
イシェの言葉に、ラーンは一瞬だけ表情を曇らせた。しかしすぐにいつもの明るい笑顔を取り戻し、テルヘルの方へ視線を向けた。
「テルヘルさん、あの石板について何かご存知かい?もしかして、ヴォルダンとの関連があるのか?」
テルヘルは静かに酒を一口飲み干すと、鋭い眼光でラーンを見据えた。
「それは…今は言えない。だが、あの石板は我々が探すものと深く関わっていることは確かだ」
彼女の言葉には、どこか不穏な響きがあった。ラーンは思わず背筋がぞっとした。イシェも同様に、テルヘルの顔色を伺っていた。
「よし、わかった!それなら、次の遺跡調査はもっと慎重にやろうぜ!」
ラーンの言葉は、まるで無邪気な子供のようだった。しかし、イシェとテルヘルは彼の瞳の中に、かすかな影を見逃すことができなかった。耳ざわりのする石板の謎。そして、それをめぐるテルヘルの目的。ビレーの小さな街に漂う不穏な空気は、やがて嵐へと発展していくことを予感させた。