「おい、イシェ、あの石碑、どうだ?何か書いてあるぞ!」ラーンの声がビレーの市場の喧騒を掻き消した。イシェは眉間にしわを寄せて石碑を見つめていた。
「またかよ、ラーン。そんな安っぽいもの、遺跡じゃないだろう」
「安っぽいって!ほら、刻まれているぞ。何か古代文字みたいだ!」
イシェはため息をついた。「古代文字なんて、誰にも読めないんだよ。それに、あの石碑は街の子供たちが遊んでいた場所にあるんだ。ただの遊び道具にすぎないんじゃないか?」
ラーンは意地になって言った。「いや、違う!俺には感じるんだ、この石碑が何かを隠してるって!」
その時、背後から冷たく響く声がした。「確かに隠しているものがあります」
ラーンとイシェは振り返ると、そこにはテルヘルが立っていた。彼女の鋭い視線は石碑に注がれていた。
「あなたたち、この石碑について何か知っていますか?」ラーンの問いかけに、テルヘルは静かに頷いた。
「この石碑は、かつてこの地に存在した古代文明の記録を刻んだものだ。その中には、失われた遺跡への道標も含まれているという」
ラーンの目は輝き始めた。「本当か!?そうか、だから俺が何か感じるものがあったんだ!」
イシェは冷静に言った。「でも、なぜそんな情報を私たちに教えるんですか?」
テルヘルは口元に少し笑みを浮かべた。「あなたたちには、この情報を利用する力があるからです。そして、私にとって必要な情報も手に入れられるでしょう」
「何の情報?」
テルヘルは目を細めた。「かつてヴォルダンが破壊した村落の記録です。そこには、ヴォルダンに奪われたもの、そして私の復讐の鍵となるものがあるはずです」
老人が石碑の陰で静かに見守っていた。彼の顔には深い皺が刻まれ、長い年月を生き抜いてきた証のように思えた。彼は何も言わずに、ただ石碑を見つめるその姿は、まるでこの街の歴史そのものを映し出しているようだった。