ラーンが巨大な石の扉をこじ開けるようにして遺跡内部へ入っていくと、イシェがため息をついた。「また、こんなところか…」
「どうしたんだ、イシェ？いい遺跡が見つかる予感がするぜ！」
ラーンの言葉にイシェは苦笑した。ラーンにはいつも通り、興奮している様子だった。だが、イシェの心は不安でいっぱいだった。彼らはテルヘルに雇われていたが、彼女の目的は遺跡の探査ではなかった。イシェは、テルヘルの真意を察知していたのだ。
「何かあったのか？」
テルヘルが鋭い視線でイシェを見つめていた。「いいえ、何もありません」イシェはそっけないように答えた。だが、その瞳には揺らぎが見え隠れしていた。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。ラーンが懐中電灯の光を壁に当てると、そこに奇妙な文様が刻まれていた。「これは…！」イシェは息をのんだ。
「何だ？何か見つけたのか？」ラーンの声が響き渡った。
「これは…ヴォルダンに関するものかもしれない」イシェは慎重に言った。「この記号は、ヴォルダンの軍がかつて使用していたものと酷似している…」
テルヘルは眉をひそめた。「ヴォルダンか…」彼女の瞳に冷ややかな光が宿った。イシェは、彼女の表情を見て、自分の予想が正しかったことを確信した。テルヘルは復讐のために遺跡を探しているのだ。そして、イシェたちはそのために利用されているのだ。
ラーンは興奮気味に「よし！ヴォルダンの財宝が見つかるかも！」と叫んだ。だが、イシェには彼の言葉が耳に入らなかった。彼女は自分の心に渦巻く複雑な感情を抑えるのに必死だった。
テルヘルは静かに言った。「この遺跡は、ヴォルダンとの戦いの鍵になるかもしれない。我々は慎重に進まなければならない」
イシェはテルヘルの言葉に、わずかな希望を感じた。もしかしたら、テルヘルは単なる復讐者ではないのかもしれない。もしかしたら、彼女には義理を守るという信念があるのかもしれない。
しかし、イシェの心は依然として不安定だった。彼女は自分が何のために戦っているのか、分からなくなっていた。