ラーンが遺跡の入り口で深く息を吸い込むと、イシェは眉間にしわを寄せた。「またあの顔か？ 今回は本当に大穴があると思ってるのか？」
「いや、違うんだ。今日はなんか…違う気がするんだよな。」ラーンは剣を軽く振って地面に叩きつけた。「ほら、見てみろよ、この空。いつもと違うだろ？」
イシェは空を見上げた。確かに、普段は灰色の雲が厚く覆っているのが常だが、今日はどこか青白い光が透けて見える気がした。「…違うのかもしれない。」と呟いた。
「よし！ 行くぞ！」ラーンが先に遺跡へと駆け込んでいく。イシェはため息をつきながら、テルヘルに視線を向けた。「彼はいつもこうなんだ。何か理由があると信じているわけではない。ただ、そう信じたいだけだ。」
テルヘルは薄暗い顔で頷いた。彼女の目はどこか遠くを見つめているようだった。イシェには、あの深い瞳の中に、かつてヴォルダンから奪われたものへの強い憎しみが宿っているように見えた。
遺跡内部は湿気がこもり、不気味な静寂に包まれていた。ラーンの足取りが軽やかであるのに対し、イシェは慎重に足場を確認しながら進んだ。テルヘルは二人を少し離れた場所で、壁に刻まれた文字を指でなぞりながら何かを呟いていた。
「ここだ！」ラーンの声が響き渡った。彼は石の扉の前に立ち、興奮気味に剣を振るっていた。「大穴だ！ 絶対に大穴だ！」
イシェが駆け寄ると、扉には複雑な模様が刻まれていた。ラーンは力を込めて押そうとしたが、 budge しない。「開かない…？」
テルヘルが近づいてきて、模様をよく観察した。「これは…古代の呪符だ。特別な鍵が必要だ。」彼女は鋭い目を細め、壁を指さした。「あの石像の手の中に鍵があるはずだ。」
イシェは石像に目をやると、確かにその手に何かが握られていることに気がついた。しかし、それは石像の一部ではなく、まるで生きているかのように脈打つような光を放っていた。
「何だあれ…？」ラーンの声が震えていた。「魔物の卵？ 触っちゃダメだぞ！」
イシェは石像に近づき、光る物体を慎重に取り出した。それは小さな水晶の球だった。
その時、突然、石壁が崩れ落ち、巨大な影が二人を覆った。イシェは振り返ると、背後から迫りくる巨大な怪物と目を合わせた。「うっ…」
ラーンは剣を構えて立ち向かおうとしたが、その姿は小さく見えた。イシェは恐怖で言葉を失った。その時、テルヘルが前に踏み出し、水晶の球を高く掲げた。球から放たれる光が怪物に照り付けると、それが苦しげな声を上げ始めた。
「これは…！」イシェは驚愕した。あの水晶は、ヴォルダンに奪われた義姉の形見であり、彼女が研究していた古代の魔法の鍵だったのだ…。