ラーンの粗雑な剣の扱いにイシェが眉をひそめた。「もっと慎重に。あの石碑は貴重な資料かもしれないのに」。「大丈夫大丈夫、イシェ。こんなもん壊れっこないぜ」。ラーンはそう言って石碑に剣をぶつけた。埃が舞い上がり、イシェは咳き込んだ。
「本当に、いつもこの調子で大丈夫なの？」
イシェの言葉に、ラーンは苦笑いした。「心配かけちゃってごめん、イシェ。でもさ、大穴を見つけたらお前もきっと喜ぶだろう？あの時みたいに」。イシェは言葉を失った。あの時、ラーンが遺跡から持ち帰った小さな宝石を見た時の彼女の目の輝きを、ラーンは今でも覚えている。あの時は本当に嬉しそうだった。
その時、テルヘルが何かを呟いた。「ここだ、何か反応がある」。彼女は手元の地図を広げ、指を動かした。イシェは地図を覗き込んだ。「確かに…この場所なら、記録にあった『禁断の書庫』の可能性もある」。
「よし、行ってみよう！」ラーンが先頭に立って遺跡の奥深くへと進んでいった。イシェはテルヘルに視線を向け、何かを尋ねようとした。「……何か用かい？」テルヘルは冷静に言った。イシェは言葉を飲み込んだ。
彼女はいつも思うのだ。テルヘルの目的は何なのか？ヴォルダンへの復讐のためとはいえ、彼女が遺跡から持ち帰る遺物はいつも自分のものとは違う。まるで誰かのために…まるで…。イシェは胸を締め付けるような予感を覚えた。
「待て」。イシェは突然立ち止まった。「何か変だ…」。彼女は周囲を見回した。静寂の中に不自然な緊張感が漂う。ラーンが振り返り、イシェに近づいてきた。
「どうしたんだ、イシェ？」
その時、背後から鋭い音が響いた。ラーンの目の前で、石壁が崩れ落ちた。そこから現れたのは、黒い鎧を纏った何者かだった。「お前たちは…邪魔だ」。その男は低い声で言った。
「誰だ！？何のつもりだ！」ラーンが剣を抜いて構えた。イシェも必死に立ち向かったが、男の力は強すぎる。イシェは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「イシェ！」ラーンの叫び声が響く。男はラーンをじっと見つめた。「お前は…義妹の命を狙うのか？」
その言葉にラーンは言葉を失った。男の視線はラーンからイシェへと向けられた。「お前を殺せば、全てが終わる」。男はそう言って、ゆっくりと剣をイシェに向けて振り下ろした…。