ビレーの賑やかな市場を縫うようにラーンが歩くと、イシェが後ろから追いかけてきた。
「待てよ、ラーン！あの依頼人、本当に大丈夫なのか？」
ラーンの肩越しにイシェがちらりと群衆を見渡しながら言った。
「大丈夫だ、大丈夫。あれだけの報酬をくれるなら、多少の危険は覚悟するだろう」
ラーンは豪快に笑って答えたが、イシェは眉間に皺を寄せたままだった。
彼らが向かった先は、ビレーの南端に位置する古びた宿屋だった。そこはかつて冒険者たちがよく利用していた場所だったが、近年では荒れ果てており、今や怪しげな噂が絶えない場所となっていた。
宿屋の奥で待っていたテルヘルは、黒曜石のような瞳で二人をじっと見ていた。彼女の横には、重厚な箱が置かれており、その表面には複雑な紋様が刻まれていた。
「今日は少し危険な遺跡に潜る必要がある」
テルヘルは冷徹な声で言った。
「その箱の中には、ヴォルダンが隠したという強力な遺物の一部が入っている。それを手に入れるために、あの遺跡の奥深くにある部屋へ行く必要がある」
ラーンは剣を手に取り、イシェは細身の体を引き締めた。二人は互いに顔を見合わせた後、テルヘルに頷いた。
「わかった。準備はいい」
ラーンの言葉と共に、三人は宿屋から飛び出した。外では群衆が行き交い、活気に満ち溢れていたが、彼らの視線は遺跡へと向けられていた。