日差しが容赦なく降り注ぐ荒涼とした平原を、ラーンとイシェは重い足取りで歩いていた。背後には、夕暮れの茜色が空を染め始める中、ビレーの街の灯りが小さく点滅しているのが見えた。
「今日は何も見つからなかったな」
ラーンの声が、疲れた様子を隠せない。イシェは小さく頷く。遺跡探索は常に危険が伴う上に、成功率は極めて低い。特に最近では、ヴォルダンとの国境紛争の影響で、遺跡周辺の警戒が厳しくなっており、探索はさらに困難になっている。
「テルヘルはどうするんだ?あの高額な報酬を払って雇ったのに…」
イシェはため息をついた。テルヘルは、いつも冷静沈着で目的意識が強すぎる女性だ。今回の依頼では、ある古代の遺物「月の涙」を探しているようだが、その目的については何も明らかにしていない。
「まあ、あの女のことだ。何か手を打っているんだろう」
ラーンの言葉に、イシェは少し安心した。テルヘルには、どこか謎めいた魅力がある。それは、彼女が持つ強い意志と知性から生まれたものかもしれない。
日が完全に沈み、星々が夜空を埋め尽くす頃、ビレーの街に到着した。賑やかな酒場に入ると、ラーンとイシェは疲れを癒すために酒を飲もうとした。すると、テルヘルが鋭い視線で彼らをじっと見つめていることに気がついた。
「何か用か?」
ラーンの問いかけに、テルヘルは淡々と口を開いた。
「遺跡の地図を入手した。明日、出発だ」
彼女の言葉に、ラーンとイシェは驚きを隠せなかった。地図は、遺跡探索には欠かせないものであり、特に今回の「月の涙」を探すためには必須だった。
「どうやって?」
イシェが尋ねると、テルヘルは薄く唇を動かした。
「情報屋だ。ヴォルダンとの関係で、彼らにも独自のルートがあるらしい」
彼女の言葉から、ラーンとイシェはテルヘルの深遠な計画を垣間見た気がした。そして、その計画が自分たちの人生にどのような影響を与えるのか、不安と期待が入り混じった感情を抱き始めた。
夜空には満月が輝き、その光がテルヘルの美しい顔に影を落とす。それは、彼女の中に秘められた複雑な過去と、未来への決意を表しているようだった。