ラーンが錆びた剣を片手に遺跡の入り口に立ち尽くしている時、イシェは眉間にしわを寄せた。「本当に大丈夫なのかい？あの遺跡は危険だって噂だぞ」。イシェの言葉にラーンは自信なさげな笑みを浮かべた。「大丈夫だよ、イシェ。俺が守ってやるからな」と答えたが、彼の視線は遺跡ではなく、テルヘルに向いていた。
テルヘルは背の高い女性で、漆黒の髪を後ろで一つに束ねている。鋭い目つきと冷徹な表情が、まるで彫刻のように美しい。その美しさは、荒廃した遺跡の風景の中で、不自然に際立っていた。ラーンは、彼女の美しさと強さに惹かれていた。しかし、同時に彼女の過去に隠された闇を感じ取っていたことも事実だった。
「よし、入ろう」とテルヘルが口を開くと、ラーンの心臓は高鳴った。彼はイシェの心配を振り払い、テルヘルの後を追いかけた。遺跡内部は薄暗く、埃が舞う。壁には古びた絵画が残され、かつて栄華を極めた文明の息吹を感じさせた。
彼らは奥へと進むにつれて、遺跡の美しさに圧倒された。壁一面に描かれた精緻な模様、床に敷き詰められた貴重な石材、天井から吊るされる水晶細工。それはまるで、失われた楽園の残骸のようだった。しかし、その美しさの裏側には、何者かの執念を感じさせる不気味な雰囲気も漂っていた。
やがて、彼らは巨大な石の扉の前にたどり着いた。扉には複雑な文様があしらわれ、古代の呪文が刻まれていた。テルヘルは慎重に呪文を解き、扉を開けると、そこは広大な地下空間だった。
そこには、黄金でできた宝の山が山積みされていた。宝石が散乱し、壁には豪華なタペストリーが飾られていた。まさに夢のような光景だった。ラーンの目は輝き、イシェも思わず息をのんだ。しかし、テルヘルは冷静に周囲を見回し、何かを探しているようだった。
「ここには何かあるはずだ」と呟くテルヘルに、ラーンは疑問を抱いた。「何を探しているのか？」と尋ねると、テルヘルは冷たい目で彼を睨みつけた。「お前には関係ない。ただ、お前たちに頼みたいことがあるんだ」と答えた。その言葉に、ラーンの胸には不吉な予感が広がった。
その時、地下空間の奥から不気味な音が響き渡った。それはまるで、獣の咆哮のようだった。ラーンとイシェは振り返ると、影の中から巨大な怪物が現れた。それは醜い姿で、鋭い牙と爪を持ち、全身に棘が生えている。
「これは…！」イシェの声が震えた。「危険だ！逃げろ！」ラーンの本能は叫んでいた。しかし、テルヘルは動じなかった。彼女は剣を抜き、怪物を挑発するように睨みつけた。その目は、かつてヴォルダンから奪われたものへの憎しみと復讐心で燃え盛っていた。
ラーンはテルヘルの美しさに、そして彼女の醜い復讐心に魅せられながらも、恐怖を感じていた。イシェは彼の手を引っ張り、「逃げよう！」と叫んだ。しかし、ラーンの足は動かなかった。彼は、テルヘルが自分のために命を懸けるかもしれないことに気づいていた。
その瞬間、ラーンの心の中で、美醜の境界線が曖昧になった気がした。