ラーンの大げさな動きが埃を巻き上げ、イシェの鼻腔をくすぐった。「おい、そっち行くなよ！あの石畳は不安定だって！」イシェの言葉は風でかき消された。ラーンは、まるで巨大な虫が這うかのような遺跡の壁をよじ登り、「ほら、見ろよ！何かあるぞ！」と叫んだ。
「またか」イシェはため息をつきながら、テルヘルの方を見た。彼女はいつものように冷静に周囲を観察し、メモを取っていた。「何か見つけたんですか？」と尋ねると、テルヘルはわずかに頷いた。「可能性はある。だが、慎重に進まなければ」
ラーンの興奮を冷やす言葉だったが、イシェにはどこか安心感があった。テルヘルの判断はいつも正確だった。しかし、その冷静さはラーンには刺さるようで、「おい、お前にそんなこと言われたくないんだぞ！俺が先頭切って開拓するんだ！」と反発した。
「落ち着けよ、ラーン」イシェが間に入ろうとしたその時、遺跡の奥から不気味な音が響き渡った。石を転がし、埃を巻き上げる音だった。「何だあの音…？」イシェは不安げに振り返り、ラーンも顔色が変わった。テルヘルは一瞬だけ驚いた表情を見せた後、素早く剣を抜いた。「警戒だ！」
彼らの前に、影がゆっくりと現れた。それは巨大な虫のような形をした怪物だった。その目は赤く光り、鋭い牙を剥き出した口からは唸り声が漏れていた。「なんだあの野郎…！」ラーンは思わず罵倒した。イシェは恐怖で体が震えるのを感じた。テルヘルは冷静に状況を分析し、「あの大きさだと、直接攻撃するのは危険だ。逃げ道を探せ！」と指示した。
しかし、逃げ道を塞ぐように、さらに複数の影が姿を現した。彼らは完全に取り囲まれてしまった。ラーンは剣を握りしめ、怒りを露わにした。「くそ…こんなとこで終わるわけにはいかない！」