冷たい風が遺跡の入り口に吹き込んだ。ラーンは肩をすくめながら、イシェに向かって「今日は寒いわな。早く大穴見つけないと凍えちまうぜ」と呟いた。イシェは小さくため息をつき、「またそんなこと言ってる。大穴なんていつ見つかるんだよ。」と答えた。
テルヘルは二人を見下ろしながら、「無駄な時間を過ごしている。今日の目標を忘れているようだ」と冷たく言った。ラーンの無計画さにイシェが呆れている様子を見て、彼女は少しだけ満足した。自分たちには明確な目的がある。ヴォルダンへの復讐。そのために必要な情報、そして資金。遺跡に眠る遺物はそれらを得るための手段に過ぎない。
彼らは遺跡の奥深くへと進んだ。壁一面に描かれた奇妙な文様、床に散らばった壊れた石像。ラーンは興味津々に周囲を観察していたが、イシェはいつも通り慎重に足取りを確かめていた。テルヘルは彼らの動きをじっと見つめながら、何かを感じ取ったかのように眉間に皺を寄せた。
突然、壁から不気味な音がした。ラーンが剣を抜こうとしたその時、イシェは彼を制止した。「待て!何か変だ」と囁いた。その時、床の石板が崩れ落ち、大きな穴が開いた。
「ひっ!」ラーンの叫び声だけが響き渡った。イシェは慌ててラーンに手を伸ばしたが、彼はすでに穴に落ちてしまっていた。テルヘルは一瞬ためらった後、イシェの手を掴み引き上げた。「大丈夫か?」と尋ねたが、イシェはただ言葉を失い、穴の底へと沈んでいくラーンの姿を見つめていた。
「……彼が落ちた場所には、何かあるはずだ」テルヘルはそう呟いた。イシェの視線はテルヘルの顔に注がれた。その目は、いつもの冷酷さではなく、どこか哀しげな光を湛えていた。
「彼を助けに行く」とイシェは言った。テルヘルは一瞬驚いてから、小さく頷いた。「慎重に行け。彼の無謀さはいつも我々を危険に陥れる」と。イシェは深く息を吸い、穴に向かって歩み始めた。その時、彼女の心には、ラーンの無計画さだけでなく、彼と一緒にいることで自分が抱えてきた罪悪感も浮かび上がってきた。
「なぜこんな場所に?」イシェは自問自答した。そして、答えを見出す前に、彼女は暗闇の中に消えていった。