ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑い声をあげた。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の肩を軽く叩いた。
「また大口叩いてるじゃないか。あの遺跡で財宝なんて見つかるわけがないだろう。」
ラーンの笑顔は一瞬曇ったものの、すぐに元に戻り、「そうかな?いつか必ず掘り当てるさ!」と自信たっぷりに言った。イシェはため息をつきながら、視線をテルヘルに向けた。
彼女は静かに酒を傾け、鋭い目で二人のやり取りを見つめていた。ラーンの無邪気さにイシェの冷静さは対照的だが、テルヘルにはそのバランスが面白いように思えた。彼女の目的達成には、この二人が必要不可欠だった。
「準備はいいか?」
テルヘルの低い声が二人を現実世界に戻した。ラーンは立ち上がり、剣を手に取った。「いつでも行くぞ!」と彼は言った。イシェは小さく頷き、テルヘルに視線を合わせた。彼女はわずかに頷くだけで、三人は酒場を後にした。
遺跡への道は険しく、日が沈むにつれて辺りは暗闇に包まれた。ラーンの陽気な歌声だけが、静寂を破る音だった。イシェは彼の歌声を聞きながら、胸の奥に広がる不安と諦めの感情を感じた。
遺跡の入り口に差し掛かった時、冷たい風が吹きつけてきた。イシェは背筋が凍りつくのを感じた。何かがいるような気がして、体が縮こまってしまった。ラーンは気づくことなく、遺跡の中へと入っていった。テルヘルも彼の後をついていった。イシェは一瞬躊躇したが、二人を追いかけるように足を踏み入れた。
暗い通路を進んでいくと、壁に奇妙な模様が描かれていた。イシェは背筋をゾッとするような感覚に襲われた。この遺跡には何か邪悪なものを感じたのだ。ラーンは気にもせず、前へ進もうとした。
「待て!」
イシェの声が響き渡った。ラーンの足が止まり、振り返ると、イシェの顔色が悪いことに気づいた。「どうした?」と尋ねた。
イシェは言葉を濁し、ただゆっくりと壁の模様を指さした。ラーンは目を凝らすと、模様の中に小さく描かれた影のようなものを見つけた。その影はまるで彼らを見ているようだった。
その時、突然地面が激しく揺れ始めた。ラーンの足元から砂埃が舞い上がり、視界を遮った。イシェは恐怖で縮こまり、目を閉じた。テルヘルは冷静に剣を抜き、周囲を警戒した。
揺れが収まると、三人とも息を呑んだ。遺跡の奥深くに、何か巨大な影がゆっくりと動いているのが見えた。その影は巨大な翼を広げ、空気を震わせていた。