ラーンが石ころを蹴飛ばした。埃っぽい風に乗ってビレーの街並みが霞んだ。
「今日はなんか嫌な予感がするなぁ」。
イシェは眉間に皺を寄せながら、地図を広げた。「そんなこと言わずに準備を済ませなさいよ。テルヘルさんも待っているでしょう」。
いつも通り、ラーンの無茶な発言にイシェが冷静に対処している。二人の後ろではテルヘルが鋭い目で遺跡の入り口を見つめていた。彼女はヴォルダンとの戦いで失った左目を隠す眼帯の下で、何かを計算しているようだった。
「今日は特に縁起が悪い気がする」とラーンは言った。「あの石像、見てごらん。なんか不気味じゃありませんか？」
イシェが振り返ると、遺跡の入り口に建つ石像が、まるで彼らを見下ろすように立っていた。奇妙な形の石像は、まるで古代の呪いのような重圧を漂わせていた。
「気にしすぎだよ」とイシェは言ったが、心の奥底では不安がよぎった。「何か悪いことが起こるような気がする」。
テルヘルは沈黙を守りながら遺跡に足を踏み入れた。彼女の背中には、ヴォルダンとの戦いで刻まれた深い傷跡が残っていた。それは復讐心だけでなく、失われた未来への強い執念を表していた。
ラーンとイシェが続くように遺跡へと入っていく。薄暗い通路を進むにつれて、埃っぽい空気が重くなり、不気味な沈黙に包まれた。
「ここには何かいる気がする…」とラーンは呟いた。
イシェは石畳の上で足音が響くのを恐る恐る確認した。「そんなこと言わずに、早く進んで」。
しかし、その瞬間、石壁から突如として黒い影が飛び出して来た。ラーンの剣が光り、影を斬り裂いた。だが、影は消滅せず、まるで煙のように広がっていった。
「何だこれは！」とラーンは驚愕した。
イシェは冷静に状況を判断した。「何か邪悪な力を感じます。気をつけなさい」。
テルヘルは剣を抜いて周囲を見回した。彼女の目は鋭く光り、復讐心と恐怖が渦巻いていた。
「この遺跡には何か危険なものが隠されている」と彼女は言った。「そして、それは私たちに必ず立ち向かってくるだろう」。