ラーンの豪快な笑いがビレーの夕暮れの空気を揺らした。遺跡探索から持ち帰った遺物は、いつも通り平凡なものばかりだった。イシェはため息をつきながら、小さな金貨を数えた。
「これでまた一週間、食うに困らないだろう」
ラーンの言葉はいつも軽やかだが、イシェは彼のその楽観性にどこか不安を感じていた。彼らの拠点であるビレーは、エンノル連合の中でも特に辺境の街だった。縁組によって家族が増えることは珍しくなく、イシェ自身も幼馴染であるラーンとの縁が深かった。
「なあ、イシェ」
ラーンは夕焼けに照らされたイシェの顔を見つめながら言った。
「いつか大穴を掘り当てたら、お前を連れて豪邸で暮らすんだ」
イシェは苦笑した。ラーンの言葉はいつも空虚な約束のように思えた。
その時、背後から冷たく響く声がした。
「大穴? 夢物語もいい加減にしろ」
テルヘルが鋭い目で二人を見下ろしていた。彼女の目的はヴォルダンへの復讐であり、遺跡探索はその手段に過ぎなかった。ラーンとイシェを雇ったのは、彼らには必要以上に強い絆を感じていたからではない。単なる使い捨ての駒だったのだ。
「今日はここでおしまいだ」
テルヘルは歩き去ろうとした。その時、イシェは彼女の言葉に引っかかった。
「使い捨て…?」
イシェは思わず呟いた。テルヘルの目的が何か、その一部を垣間見た気がした。ラーンの大穴への執念も、イシェ自身の堅実な生き方も、全てテルヘルの計画の中に組み込まれているのではないか。
イシェの胸に不安と恐怖が渦巻いた。そして同時に、どこかで小さな希望が芽生えた。
もしかしたら、この縁組によって結ばれた三人は、運命を打ち破る力を持てるのかもしれない。