ビレーの夕暮れ時、オレンジ色の光が街を包んでいた。ラーンとイシェは遺跡からの帰路、いつものように縁側に腰を下ろした。日が沈むにつれて涼しさが増し、疲れ切った体を癒やしているようだった。
「今日は何も見つからなかったな」
ラーンの言葉にイシェは小さく頷く。今日も一日中、埃っぽい遺跡の中を歩き回ったが、収穫はゼロだった。
「テルヘルも怒るだろうな」
ラーンは少し不安げに言った。テルヘルはいつも高額の日当と引き換えに、遺跡からの貴重な遺物を独占する権利を求める。最近は特に要求が厳しくなっており、失敗すれば容赦なく仕事を打ち切られる可能性もある。
イシェはラーンの肩を軽く叩いた。
「大丈夫だよ。明日はきっと何か見つかるはず」
イシェ自身も不安を感じていた。最近、テルヘルの目的が曖昧になってきているように感じられ、彼女の冷酷な一面に恐怖すら覚えるようになっていた。
その時、遠くから足音が聞こえた。ラーンとイシェは視線を合わせると、縁側に近づくテルヘルの姿を見つけた。夕暮れの光に照らされ、彼女の顔は影で覆われており表情が読み取れなかった。
「今日は何も見つからなかったようですね」
テルヘルは静かに言った。声のトーンはいつもと変わらず冷静だが、どこか不穏な空気が漂っていた。
ラーンは緊張した様子で首を横に振った。イシェも何も言わずに視線を下に向けた。
テルヘルは縁側に近づき、二人が座っている前に立ち止まった。その姿はまるで、狩人のように獲物を狙う獣のようだった。
「明日から少し計画を変えます」
テルヘルはゆっくりと口を開いた。その目は、まるで二人が座る縁側の向こう側を透かし、どこか遠くを見つめているようだった。