ラーンが石を蹴り飛ばすと、それはビレーの端にある崖の下まで転がり落ちていった。イシェがため息をつきながら言った。「また無駄なエネルギーを使うな。今日は特に焦る必要はないはずだ」
ラーンの表情は曇った。「そうだな。でもさ、テルヘルに言われたあの遺跡のこと考えると、何かワクワクするんだ」
イシェは眉をひそめた。「ワクワクするのはいいが、その前に準備は万端か?あの遺跡は危険だって聞いたぞ。特に地下深くには…」
ラーンの視線は遠くのヴォルダン国境へと向けられた。遥か彼方だが、まるでそこに何かがあるかのように、彼の瞳に焦りが宿っていた。「あの国境を越えた先にある遺跡が…俺たちが目指す大穴かもしれないんだ」
イシェはラーンの背中に手を置いた。「落ち着いて。まずは目の前の仕事だ。テルヘルから依頼された遺跡を調査し、持ち帰れる遺物を見つけ出すこと。それが今の私たちの目標だ」
その言葉を聞いた瞬間、ラーンは立ち直り、陽気な笑みを浮かべた。「ああ、そうだな!イシェには感謝だ。お前が俺のブレーキになってくれるからな!」
テルヘルはビレーの酒場で待っていた。彼女の鋭い視線は、ラーンとイシェの到着を捉えた瞬間、氷のように冷たくなった。「遅すぎるぞ。準備は万端か?」
ラーンの表情は一変し、真剣な顔つきになった。「もちろんだ、テルヘル。我々はいつでも準備ができている」
テルヘルは薄ら笑いを浮かべ、「そうか…では、出発だ」と立ち上がった。彼女の背中は、まるで影のように闇に溶け込んでいくようだった。
イシェはラーンの視線を感じた。「一体、何があったんだ?」
ラーンは深いため息をつきながら言った。「何もない。単に…この街を出て、何か新しいことに挑戦したいだけなんだ」
イシェは彼を見つめ、何かを悟ったように小さく頷いた。二人はテルヘルの後を歩き始めた。ビレーの喧騒は、徐々に遠ざかり、彼らの背中には静寂が広がっていった。