ビレーの薄暗い酒場「錆びた剣」で、ラーンがmugを空にしてガフガフと笑っていた。「今日の遺跡は特に何もなかったな!でも、また明日行こうぜイシェ!」
イシェは眉間にしわを寄せながら、ラーンの肩を軽く叩いた。「そんなこと言わずに、ちゃんと報告書を書けよ。テルヘルが怒るぞ」。
ラーンは「あああ」と面倒そうに答えた。テルヘルはいつも厳しい表情で遺跡の報告を要求する。大穴を探すのはいいけれど、その道のりは険しく、危険も多い。彼女はいつも彼らの安全を第一に考えているのだろうか?それとも、単なる道具として扱っているだけなのか?イシェはそんなことを考えながら、ラーンの報告書に目をやった。
テルヘルはいつものように鋭い目で報告書を読み込んだ後、口を開いた。「この遺跡の記録には、ヴォルダンとの戦争時に使用された兵器に関する記述がある」と彼女は言った。「もしそれが真実なら、それは大きな発見だ。だが…」テルヘルは言葉を濁し、ラーンとイシェを見つめた。「その兵器は危険な力を持つ可能性もある。我々はこの情報を利用するべきか、それとも封印すべきか...」
ラーンの表情が曇った。「おいおい、また難しい話かよ」。彼はいつも通り、問題から逃れようとした。
「待て、ラーン。」イシェは彼を制止した。「テルヘルが言っているのは重要なことだ。この情報がもし真実なら、エンノル連合の未来、いや、世界の未来にも関わってくるかもしれない」。
イシェは自分の言葉を確かめるように、ラーンの目を見つめた。彼の顔には迷いが浮かんでいた。そして、イシェは彼の中に小さな「綻び」を見つけ出した。それは、いつも無邪気に遺跡に飛び込んでいくラーンとは違う、何かを恐れるような影だった。
「イシェ...」ラーンは小さく呟き、何かを伝えようとしたが、言葉は途絶えた。その時、酒場のドアが開き、一人の男が入ってきた。彼は黒ずくめの外套を身にまとい、顔を覆ったままだった。
「テルヘル様。」男は低い声で言った。「ヴォルダンからの使者が...」。
その瞬間、ビレーの街に、嵐が吹き荒れる予感がした。