ビレーの朝はいつもと同じように、霧に包まれていた。ラーンが粗末な宿屋から飛び出すと、イシェがすでに遺跡の入り口で待っていた。彼女はいつも通り、冷静な顔で地図を広げている。
「今日はあの洞窟だな」
イシェの声は澄んだ空気の中に響き渡り、ラーンの心を少しだけ落ち着かせた。彼はイシェの後ろから彼女の肩越しに地図を覗き込んだ。「あの洞窟か…噂には聞いたことがあるが、綺麗だったらしいな。宝石で埋め尽くされているって」
イシェは小さく苦笑した。「そんな噂は信用するな。遺跡は常に危険だ」
ラーンの胸の高鳴りを抑えられず、「でも、もし本当だったら…」と彼は目を輝かせた。イシェは彼の瞳を見つめ、静かに「もし」という言葉に力を込めた。「もし、本当に宝石が見つかったら…」
その時、後ろから低い声が響いた。「準備はいいか?」テルヘルが鋭い眼光で二人を見下ろしていた。彼女の黒いコートは朝日に照らされて、まるで漆黒の翼のように見えた。ラーンは彼女に気を取られながらも、イシェの顔色を伺った。彼女はいつも通り冷静だったが、目元にはかすかな緊張が見え隠れした。
「準備は万端だ」テルヘルが言った瞬間、ラーンの心臓は激しく鼓動し始めた。今日は何か違う。いつもの遺跡探索とは違う予感がする。まるで、美しい宝石が彼らを待っているかのような、そんな気持ちに駆られた。
彼らは三名で遺跡へと足を踏み入れた。ビレーの霧が薄れ、空には青い光が広がり始めた。それはまるで、彼らに希望を与えるように見えた。