「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂じゃ奥に秘宝が眠ってるらしいぜ!」ラーンが目を輝かせた。イシェは眉間にしわを寄せながら地図を広げた。「あの塔は危険だって聞いたことがある。地下深くまで続く迷路のような構造で、しかも魔物の巣窟らしいぞ。」ラーンの豪快な笑い声が響き渡る。「大丈夫だ大丈夫!俺たちにはイシェがいるんだからな!」
テルヘルは二人が言い争う様子を冷めた目で眺めていた。彼女は自分の目的のためにこの二人を利用していた。彼らの力を借りてヴォルダンに復讐を果たすのだ。だが、そのために必要な情報は遺跡の奥深くに眠っている可能性が高い。そして、その遺跡の情報網は、かつてヴォルダンが築き上げた組織に深く染み付いていることを彼女は知っていた。
「準備はいいか?」テルヘルが鋭い声で言った。「あの塔には罠が仕掛けられているかもしれない。特に地下深くは要注意だ。」イシェは頷き、ラーンの腕にしっかりと手を置く。ラーンは深呼吸をすると、笑顔を見せた。「よし、行くぞ!」三人は崩れかけた塔の入り口へと向かった。
塔の中は薄暗く、埃っぽい空気で満たされていた。壁には苔が生え、石畳にはヒビが入り、崩壊寸前の様子だった。それでも、かつて栄華を誇っていた名残がそこかしこに感じられた。ラーンは剣を構え、イシェは小さなランタンを灯しながら慎重に進んでいった。テルヘルは二人が背後から進むように指示する。
地下深くへと続く階段を降りるにつれて、周囲の温度が下がり、湿気が増していった。壁には奇妙な模様が刻まれており、不気味な光がかすかに浮かび上がっていた。イシェは不安そうに振り返り、「ここは何か変だ…」と呟いた。ラーンの表情も少し硬くなった。「気をつけろ。」
階段を降り終えると、そこは広大な地下空間だった。天井から伸びる石柱はまるで巨大な蜘蛛の巣のように複雑に絡み合っていて、その間を奇妙な形の影が揺らめいていた。まるで生きているかのような不気味な雰囲気に包まれていた。
「ここには何かがいる…」イシェは震える声で言った。ラーンは剣を握りしめ、周囲を見渡した。「敵か?それとも罠か?」その時、床から黒い霧が立ち上り、空中に広がっていった。霧の中に赤い光が点滅し、不気味な音が響き渡る。
「これは…」テルヘルは眉間に皺を寄せた。この霧は彼女がヴォルダンの情報網から聞いたことのあるものだった。強力な魔術で作り出されるもので、侵入者を阻むために用いられるという。そして、その霧の中に潜むものは、かつてヴォルダンが操っていた魔物たちだったのだ。
三人は互いに背を当て合い、剣を構えた。目の前には、網目状に広がる黒い霧と、その奥に蠢く影しか見えなかった。