ビレーの tavern の賑やかな喧騒が、ラーンとイシェの耳に届いていた。いつもならその熱気の中、酒を片手に豪語するラーンの姿があったはずだ。だが今日は違う。ラーンの目は曇り、テーブルに肘をつき、無言で酒を飲んでいた。
「どうしたんだ、ラーン?」イシェは心配そうに言った。ラーンの顔色は悪く、いつもよりさらに荒々しい雰囲気をまとっていた。「何かあったのかい?」
ラーンはゆっくりと顔を上げ、イシェの目を見つめた。「あの遺跡…あれは罠だった」彼の声は力なく、かすれていた。
「罠って…?あの遺物のことか?」イシェは、昨日テルヘルが持ち帰った奇妙な石を思い出した。それは不規則な形状で、表面には複雑な模様が刻まれていた。テルヘルはそれを「強力な魔力が宿っている」と主張し、高値で売り払おうとしていた。
ラーンは頷き、酒をグラスに注ぎ足した。「あの石に触れた途端、俺たちの頭の中が…混乱したんだ。まるで何かが俺たちの中に侵入してきたような感覚だった…」
イシェは背筋が寒くなるのを感じた。テルヘルはいつも冷静沈着で、危険な状況でも動じない女だった。だが、今回の件では何か様子が違った。
「あの石を調べたのか?」ラーンの問いに、イシェは小さく頷いた。彼女は自分の部屋で石を慎重に観察し、歴史書や遺跡の記録と照らし合わせてみた。「だが、何も見つからなかった…」
ラーンはテーブルを叩き、「あの女…一体何を知っているんだ」と呟いた。彼の目は、過去の出来事を思い出すように燃えていた。テルヘルがヴォルダンへの復讐を誓う理由、そしてそのために何を犠牲にする覚悟があるのか…。
イシェはラーンの言葉に深く頷いた。彼らはまだ、この「継続」する旅路のほんの一部しか見ていなかったのだ。そして、その先にはどんな真実が待っているのか、誰も知らなかった。